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「温泉」が腸内細菌叢に良い影響 泉質によって異なる健康効果 温泉療法は肥満・メタボの人にも良い

 温泉⼊浴が、ビフィズス菌を増加させるなど、腸内細菌叢に好ましい影響をもたらし、健康効果につながる可能性があることが、九州大学の研究で明らかになった。

 温泉⼊浴が腸内細菌叢にもたらす影響は、炭酸⽔素塩泉ではビフィズス菌が有意に増加するなど、泉質によって異なることも分かった。

 「温泉療法の理論的根拠を見い出し、温泉療法や健康促進プログラムを開発することで、より個別化されたアプローチが可能になり、地域活性化にも寄与するものと期待されます」と、研究者は述べている。

温泉⼊浴の健康効果 腸内の善玉菌が増加

 温泉は⻑い歴史を通じて、病気の治療や保養など、さまざまな効果を期待して利⽤されてきた。⽇本には10種類の療養泉(泉質)があり、それぞれ効能が異なると伝えられている。

 ⼀⽅で、温泉入浴が健康な⼈にどう影響するかはよく分かっておらず、腸内細菌叢や健康への影響についても⼗分に解明されていない。

 そこで、九州大学の研究グループは、別府市と別府市旅館ホテル組合連合会と共同で、温泉の効果の検証を⾏った。

 今回、九州地⽅在住の健康な成⼈を対象に、別府温泉の異なる5泉質の温泉⼊浴の前後での腸内細菌叢の変化を分析した。

 その結果、炭酸⽔素塩泉⼊浴によりビフィズス菌が増加するなど、温泉⼊浴が腸内細菌叢を変化させ、泉質ごとに異なる腸内細菌を有意に増加させることを、はじめて明らかにした。

 人の腸内には、100兆個と推定される腸内細菌が生息しており、そのなかには良い働きをする善玉菌もある。

 腸内細菌叢を良くすることが、さまざまな体の不調や、肥満や糖尿病、炎症性腸疾患、がん、ウイルスなどに対する免疫などの改善にもつながると注目されている。

温泉⼊浴の効果を科学的に検証

 研究は、九州⼤学⼤学院⼯学研究院都市システム学講座の⾺奈⽊俊介主幹教授(兼 九州⼤学都市研究センター⻑)と、武⽥美都⾥特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

 九州の別府温泉地は、2,000以上の温泉源を有し、⽇本でもっとも多様な温泉を提供している。⽇本では、含まれる化学物質の種類と濃度により、10種類の療養泉に分類されている。

 温泉は、地域開発や温泉療法で、重要な役割を果たしてきた。鉱泉や温泉⽔の⼊浴や飲⽤は、治療の補助や疼痛緩和のために世界中で⽤いられている。

 温泉⼊浴の効果として、筋⾻格系や⽪膚疾患の患者などの睡眠の質や⽣活の質の改善に加え、⼼⾎管疾患や⾼⾎圧などの緩和に効果があるなどの報告がある。

 さらに、最近の研究では、温泉⼊浴と疾病患者での腸内細菌との相互作⽤についても研究が進められている。腸内細菌は、さまざまな病気や健康に深く関わっている。

炭酸⽔素塩泉⼊浴によりビフィズス菌が増加

 研究グループは今回、2021年6⽉~2022年7⽉に、九州在住の18歳~65歳の健康な成⼈136人(男性80人、⼥性56人)を対象に調査を実施。

 参加者に、別府温泉の5つの異なる泉質(単純泉、塩化物泉、炭酸⽔素塩泉、硫⻩泉)に7⽇間連続して⼊浴してもらった。⼊浴時間は毎⽇20分以上とし、参加者は通常通りの⾷⽣活を維持するよう求めた。

 7⽇間の⼊浴前後の便検体を収集し、腸内細菌叢の変化を16S rRNA遺伝⼦アンプリコンシーケンシングにより測定し解析した。

 その結果、その結果、泉質によって腸内細菌の占有率に有意な変化が起きており、とくに炭酸⽔素塩泉⼊浴によりビフィズス菌の⼀種(Bifidobacterium bifidum)が有意に増加することなどが明らかになった。

 他にも、単純泉、炭酸⽔素塩泉、硫⻩泉での⼊浴後には、それぞれ異なる腸内細菌叢の有意な変化があることを確かめた。

温泉⼊浴が腸内細菌叢に与える影響を実証
泉質ごとに異なる腸内細菌を有意に増加させることを明らかにした

出典:九州大学、2024年

温泉⼊浴の健康効果について科学的根拠を提供

 「温泉⼊浴は、疾病患者のみでなく、健康な⼈にも広く親しまれており、その効果を検討することで公衆衛⽣の向上や、温泉の新しい価値を創出することができると考えられます」と、研究者は述べている。

 「今回の発⾒は、温泉⼊浴による健康増進の効果に関する新たな科学的根拠を提供するもので、将来的に、温泉療法を⽤いた公衆衛⽣の向上および地域活性化に貢献することが期待されます」。

 「温泉による腸内細菌叢や健康への影響について、まだ⼗分に解明されておらず、温泉⼊浴効果がどの程度持続するのかや、また他の⾝体的効果などについても、今後の研究と慎重な議論が必要です。現在、再現性の確認や、対照群を⽤いた研究による、より詳しい研究を進めています」としている。

温泉療法は肥満・メタボの人にとっても有用

 内臓脂肪が過剰にたまったメタボリックシンドロームや肥満は、代謝異常や2型糖尿病、脂肪肝、心血管疾患などの代謝疾患のリスクを高める。

 温泉療法により、代謝性疾患を改善する効果を得られると注目されている。たとえば、肥満をともなう2型糖尿病の人が、温泉療法に3週間取り組んだところ、体重が減少し、1~2ヵ月の血糖値の平均が反映されるHbA1が低下し、神経障害の症状の改善などの効果を得られたという報告がある。

 米オレゴン大学は、肥満があり、高血圧と判定された35~60歳の人に、温泉療法と運動療法を組み合せたプログラムに8週間取り組んでもらい、肥満や高血圧をどれだけ改善できるかを調べる研究を行っている。

 研究グループの過去の研究では、温浴療法のみを行っても、血圧値の低下や動脈硬化の改善の十分な効果は得られないことが示されている。

 「温浴療法と運動・身体活動を組み合せることで、効果を相乗的に高められると期待しています。運動を習慣として行うことは、効果が高く、心血管疾患・代謝疾患・認知症・がんなどの予防などにつながります」と、同大学人間生理学部のジョン ハリウィル教授は言う。

 「ただし、運動を習慣として行っている人は少ないという課題があります。有酸素運動と筋力トレーニング両方について、運動ガイドラインの推奨を満たしている米国の成人は、わずか23%にとどまります」。

 「温泉を上手に活用すれば、運動を長続きできるようになると期待しています。地域資源を療養に有効活用するヘルスツーリズムは、地域の活性化にもつながると期待されます」としている。

 温泉療法がもたらす効果として、▼入浴の温熱作用によるカロリー消費の増加、▼温泉浴によるリラックス効果、▼森林浴や温泉プールでの水中運動など、恵まれた自然環境での運動の効果、▼ホルモン分泌や自律神経作用の安定化などを挙げている。

九州⼤学⼤学院 ⼯学研究院
Effects of bathing in different hot spring types on Japanese gut microbiota (Scientific Reports 2024年1月28日)

Study will ask if hot tubbing can lower blood pressure (オレゴン大学 2020年2月20日)
Hot-Tub Therapy for Type 2 Diabetes Mellitus (New England Journal of Medicine 1999年9月16日)

温泉医科学研究所
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