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「産業保健サービスを従業員50人未満の小規模事業場へ提供するために」 日本産業衛生学会提言

 日本産業衛生学会は、従業員50人未満の小規模事業場へ産業保健サービスを提供するため、産業医の選任義務をはじめとした各種法的義務の従業員要件を廃止すべきとする提言を発表した。

 日本の労働者人口のうち、半数以上が小規模事業場で働いているにもかかわらず、十分な産業保健サービスを受けることができていないと指摘し、すべての労働者に対して産業保健サービスの提供を目指すための提言だとしている。

50人未満の小規模事業場は、95%を超える

 『令和3年経済センサス‐活動調査 速報集計』によると、日本の労働者人口約5,750万人のうち約57%あたる3,300人弱が、従業員50人未満の小規模事業場で働いている。
 事業数でみてみると、全国の約508万事業場のうち従業員50人未満規模の小規模事業場は、全事業所数の約96%を占めている。

 また労働者300人未満規模のいわゆる中小規模事業場は、全事業場数の99.7%、従業者数の84.1%を占め、経済も含めた日本の社会は中小規模事業場が担っており、その重要性はいうまでもない。

出典:令和3年経済センサス‐活動調査 速報集計(令和4年5月)P.20より

労災は小規模事業場ほど多い

 一方、令和5年の労働災害統計によると、事業場の規模が小さいほど労働災害が多い結果となっている。これまでもいわれてきたことだが、事業場規模が小さいほど、安全衛生管理が重要となり、産業保健サービスの提供が必要であることがわかる。

出典:厚生労働省 職場のあんぜんサイト「労働災害統計」より作成

産業医の選任義務の有無は、従業員の健康管理に大きな違いが

 現在、労働安全衛生法(=安衛法)において、従業員50人未満と50人以上の事業場の大きな違いの1つは、産業医の選任義務の有無である。産業医の選任義務が発生するのは、常時雇用する従業員が50人以上の事業場となっている。

 このため従業員50人未満の事業場では産業医の選任義務はない。だが事業場には安全配慮義務が課せられており、従業員が安全で健康に働くために配慮することが求められている。

 この観点からも、従業員50人未満の事業場でも産業医を選任することが望ましいとされているが、産業医を選任している事業が少ないのが実情だ。

 一方、従業員数を問わず全ての事業場では、①定期健康診断の実施、②長時間労働者の面接、③社会保険・労働保険への加入をしなければならない。

 定期健康診断は従業員の健康管理の基本となるもの。従業員を1人でも雇っている場合は、定期健康診断を受けさせる義務がある。ただし労働基準監督署への報告義務がなく、事業場規模が小さくなるにつれて実施率が下がる傾向にある。しかも何らかの異常所見が見つかる確率は、規模が小さいほど高くなるといわれている。

 また時間外・休日労働時間が月100時間を超え、疲労の蓄積が認められる長時間労働者に対しては、平成20(2008)年から本人の申し出があった場合、医師による面接指導を行わなくてはならなくなっている。

 しかしながら産業医の選任がなかったり、制度の周知や経済的・人的不足な面もあり、これら産業保健サービスの提供が行き届いているとは言い難い。

安衛法の各種法的義務で、人数要件の廃止を提言

 このような産業保健活動の現状を踏まえて、日本産業衛生学会の下部組織である政策法制度委員会は、「産業保健サービスを小規模事業場(従業員数50人未満)へ提供するために」と題する提言をまとめ、8月に公表した。

 提言では、「前文」において「日本の労働者の半数以上が働く従業員数50人未満の小規模事業場は、経済的および人的に余裕がなく、労働者の安全や健康を確保するための取り組みが十分とは言い難い。一方で、事業場の規模が小さいほど労働災害の発生率が高いなど、安全衛生に関する多くの課題を抱えている。

 そのような小規模事業場に産業保健サービスを提供する制度を整えることは、労働者の安全と健康の確保に大きく寄与すると考えられる」と述べ、安衛法の法的義務で「従業員50人未満」といった人数要件を廃止し、すべての労働者に産業保健サービスの提供を享受できるような仕組みを構築するために提言を行うとしている。

法令に基づく産業保健体制の再構築と各種専門職の活用を

 提言の内容をみると、事業者責任の明確化と国の監視強化を前提に、産業保健全体の自律的管理を推進することを提起。また産業保健専門職チームによる活動については『外部専門機関』を定義して、活用できるような体制整備することを提案。

 産業保健専門職、特に産業医の活用促進、産業保健看護職の活用促進を進め、そのための法整備、産業衛生技術職の機能の強化が必要としている。

 また現在、小規模事業場に対して外部専門家による支援が無償で行われているが、これを一般化するためには国からの助成制度など有償の「コンサルティング業務」へと移行することも提案している。さらに小規模事業場に効率よく産業保健サービスを届けるために、ICTなど最新技術を活用することや地域産業保健センターの役割強化および機能拡充にも提言に盛り込んでいる。

 提言項目は下記の通りである。提言には、小規模事業場ばかりでなく産業保健活動全体の向上に役立つヒントや問題提起が多数なされているので参照していただきたい。

出典:提言:産業保健サービスを小規模事業場(従業員数 50 人未満)へ提供するために (2024.8)より

参考資料

公益社団法人日本産業衛生学会
提言:産業保健サービスを小規模事業場(従業員数50人未満)へ提供するために(日本産業衛生学会 政策法制度委員会/2024年8月)
「職場のあんぜんサイト」労働災害統計
令和3年 経済センサス‐活動調査 速報集計 結果の概要(総務省・経済産業省/令和4年5月31日)

[保健指導リソースガイド編集部]
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