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コロナ禍のウェルビーイング格差は所得格差に連動 コロナ禍に孤独を感じている人が増加 健康的な高齢化に関する調査

 コロナ禍を経験して、日本の所得格差は拡大しなかったものの、生活満足度や心身の健康状態などで測ったウェルビーイングの格差は所得格差に連動して拡大したことが明らかになった。

 労働環境の変化は、金銭的な格差だけでなく、生活満足度や心身の健康といったウェルビーイングの側面でも新たな格差を生み出し、社会全体の不平等を複雑化させる可能性があるとしている。

 コロナ禍を経験した6年間で、孤独や孤立を感じている人は増えたことが、米国の50~80歳の成人を対象とした、健康な高齢化に関する全国世論調査でも明らかになった。

ウェルビーイングの格差は所得格差に連動して拡大

 コロナ禍を経験して、日本の所得格差は拡大しなかったものの、生活満足度や心身の健康状態などで測ったウェルビーイングの格差は所得格差に連動して拡大したことが、慶應義塾大学の研究で明らかになった。

 コロナ禍では、給付金の支給などにより金銭的格差は抑えられたものの、高所得層では在宅勤務が普及し、そのベネフィットを享受した結果、非金銭的な側面でのウェルビーイングの差が社会全体で拡大し定着したと考えられるという。

 研究グループは、コロナ禍によって格差がどのようにあらわれ、中長期的にどのように変わっていくかを、全国の4,000人を対象に実施している「日本家計パネル調査(JHPS)」のデータを解析し検討した。

 この調査は、経済や就業の状況に加えて、教育・健康・医療などにも焦点をあてて実施しているもので、所得に加えウェルビーイングなど非金銭的側面も含めて社会格差を捉え、効果的な政策を立てることを目指している。

 ウェルビーイングに関しては、(1) メンタルヘルス指標、(2) 生活満足度、(3) 健康満足度、(4) 仕事満足度の項目を用いた。メンタルヘルス指標については、心理的ストレスの尺度を6つの項目からスクリーニングするK6で、3つの満足度については、0~10段階のリッカート尺度で評価した。

柔軟な働き方が浸透しないとウェルビーイングは悪化?
リスキリングの機会の提供なども重要

 その結果、パンデミック初期に導入された経済支援策が、とくに低所得層の収入低下の阻止の効果を発揮し、コロナ禍以降も、中期的には所得格差は拡大していないことが示された。

 一方で、コロナ禍を経てウェルビーイングは全体的に悪化し、所得階層別にみると、とく低所得層では悪化したことが示された。

 ただし、高所得層ではウェルビーイングが向上ており、コロナ禍を経て、所得格差に連動するかたちでウェルビーイング格差が拡大したとみられとしている。

 とくに労働環境では、コロナ禍を契機に、高所得層で在宅勤務が普及し、柔軟な働き方が加速した一方で、低所得層では柔軟な働き方の浸透は遅れ、感染リスクや雇用不安が顕著となったと考えられる。

 「こうした労働環境の変化は、中長期的に影響を及ぼし、金銭的な格差だけでなく、生活満足度や心身の健康といったウェルビーイングの側面でも新たな格差を生み出し、社会全体の不平等を複雑化させる可能性があります」と、研究者は述べている。

 「所得不平等に直接的に介入するだけでなく、在宅勤務の実施可能性の向上や、新しいデジタル技術に対応するためのリスキリング(職業能力の再開発や再教育)の機会の提供が、今後の社会政策で重要と考えられます」としている。

 研究は、慶應義塾大学商学部の山本勲教授、経済学部の石井加代子特任准教授らによるもの。研究成果は、「Social Indicators Research」にオンライン掲載された。

コロナ禍の6年間で孤独を感じている人が増加
体や心が不健康な人は孤独を感じやすい

 コロナ禍を経験した6年間で、孤独や孤立を感じている人は増えたことが、米ミシガン大学などが50~80歳の成人を対象とした、健康な高齢化に関する全国世論調査で明らかになった。

 孤独や孤立を感じている人の割合は、ほぼ新型コロナのパンデミック前の水準に戻ったものの、3分の1以上の人が孤独を感じており、ほぼ同数の人が孤立を感じていることが明らかになった。

 とくに高齢者や、深刻な身体的あるいは精神的な健康問題を抱えている人は、孤独や社会的孤立を感じている人が多いことも分かった。

 研究グループは、コロナ禍の時期をはさむ2018~2024年に、全国で6回の世論調査を実施し(回答数は2,033~2,563)、「仲間がいない」「ひとりぼっちでいる」「孤独である」といった主観的な感覚や、「他人から孤立している」(社会的孤立の経験)と感じている人がどのくらいの頻度でいるかを調査した。

 その結果、2024年には33%が、過去1年間に「孤独をときどきまたは頻繁に感じた」と回答した。コロナ禍の期間の42%から減少し、2018年の34%とほぼ同程度に戻った。

 孤立を感じている人の割合も、2024年には29%になり、コロナ禍の期間の56%から減少し、2018年の27%とほぼ同程度になった。

 とくに、身体・精神の健康状態は孤独感などに強く影響することも示された。身体的な健康状態が普通あるいは悪いと答えた人の53%が、さらに精神的な健康状態が普通または悪いと答えた人の75%が、それぞれ孤独を感じていることが分かった。

 「孤独や孤立を感じている人の割合が、表面的には、新型コロナのパンデミックが起こる前の状態に戻ったというのは良い知らせのようにみえますが、ベースラインの時点で、とくに高齢者で孤独や孤立を感じている人が多いことは懸念するべきことです」と、同大学医学部内科のプリティ マラニ教授は述べている。

 「2024年の調査では、孤独感や孤立感が健康に与えるネガティブな影響について知っている人が増えたことも分かりました。こうした傾向は、孤独と孤立が生活での重要な要素として理解されるべきであることを示しています」。

 「とくに高齢者の孤独や孤立に対してスクリーニングを行い、高齢者センター、地域の高齢者支援機関、コミュニティ組織、ボランティア活動などでケアやサービスを提供し、困難を抱えた人を地域のリソースにつなげることを考えるべきでしょう」としている。

コロナ禍に孤独を感じている人は増加
時々あるいは頻繁に孤立を感じていると回答した50~80歳の成人の割合。米国で2018~2024年に実施された健康的な高齢化に関する全国世論調査の結果。

出典:ミシガン大学、2024年

慶應義塾大学商学部
Trends in Income and Well-Being Inequality During the COVID-19 Pandemic in Japan (Social Indicators Research 2024年12月21日)
日本家計パネル調査(JHPS/KHPS)
Loneliness and isolation: Back to pre-pandemic levels, but still high, for older adults (ミシガン大学 2024年12月11日)
Loneliness and Social Isolation Among US Older Adults (JAMA 2024年12月9日)

[Terahata]
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