ニュース

心房細動による脳卒中を予防するプロジェクト 日本脳卒中協会

 脳がダメージを受ける脳梗塞の原因になる心房細動の患者数は約80万人。早期に発見し、適切な治療を行えば、多くは予防できる。

 日本脳卒中協会は「心房細動による脳卒中を予防するプロジェクト」(委員長:山口武典・日本脳卒中協会理事長)を開始した。

 その一環として、同プロジェクト実行委員会は、「心房細動」による脳卒中を予防するための地域一体的な取り組みを提案する提言書を発表した。

心房細動のある人は脳梗塞を5倍発症しやすい
 心房細動は、心臓のリズム(拍動)が乱れ、血液が心臓内に停滞してしまう状態のこと。健康なとき、心臓は1分間に60~80回の収縮と拡張をくり返し、血液を全身に送り出している。しかし心房細動になると心房の拍動数は1分間で300回以上になり、心臓は速く不規則に拍動する。

 心房細動は高齢者に多くみられ、国内患者数は少なくとも約80万人と推定されている。心房細動がある人は、ない人に比べて約5倍も脳梗塞(血管が詰まるタイプの脳卒中)を発症しやすくなる。

 心房細動が原因で心臓にできる血栓は比較的大きく、それが脳にとぶと、脳の太い血管をふさぐ。その結果起こる脳梗塞(心原性脳塞栓症)は、ダメージを受ける脳の範囲が広いのが特徴だ。

 そのため、死亡率(約2割)や、寝たきりなど介護が必要な重度の後遺症が残る可能性も高く(約4割)、患者本人や介護する家族の負担、そして社会・経済的負担が非常に大きくなる。

 高齢化の進展が著しい日本において、心房細動患者が今後急速に増加すると予想されており、この心房細動による脳梗塞への対策は早急に取り組むべき課題といえる。

心房細動による脳梗塞の6割は予防できる
 心房細動による脳梗塞はもっとも重篤な脳梗塞だが、脳梗塞予防のための適切な治療(抗凝固療法)により約6割が予防できる。したがって、心房細動を早期に発見し、適切な抗凝固療法を行うことが重要だが、その実現には解決すべき大きな課題がある。

 まず、心房細動の早期発見が重要となる。心房細動を見つけるには心電図が不可欠で、その症状が現れれば心房細動を疑って受診し、心電図検査を受けることが必要となる。そのためには一般市民が広く、心房細動の症状と脳梗塞予防の重要性について知る必要がある。

 症状だけでは不十分で、脳梗塞予防の重要性についても知識をもっていなければ、せっかく健診などで心房細動を指摘されてもその後の受診に繋がらず、脳梗塞を予防することができない。

 ただし、心房細動のうち自覚症状のないものや、短時間で消失する「発作性心房細動」は発見が困難なため、心房細動のリスクが高い人には、自覚症状がなくても定期的に心電図検査を受ける必要がある。

 次に同委員会は、抗凝固療法については、「脳梗塞発症リスクの高い心房細動患者は、適切な薬を適切な量、内服してもらうことが重要」と説明している。

 不適切な抗凝固療法を受けると、脳梗塞の予防効果が低くなり脳梗塞を起こしたり、出血などの副作用が生じる危険性が高くなったりする。残念ながら現状では、適切な抗凝固療法を受けている心房細動患者は全体の半数程度とも言われるなど、治療の課題も指摘されている。

 このような背景を踏まえ、同プロジェクトでは、心房細動の早期発見と適切な治療を促すことで脳卒中の予防を推進するとしている。

 プロジェクト実行委員会は、自治体・保険者・医療提供者などに対し、現状と課題を踏まえた具体的な取り組みの提案を行うため、提言書「脳卒中予防への提言―心原性脳塞栓症の制圧を目指すために―」をまとめた。

心房細動による脳卒中を予防するプロジェクト(日本脳卒中協会、バイエル薬品)

「心房細動による脳卒中を予防するプロジェクト」による提言(要旨)

提言1: 心房細動の早期発見のために
(1)特定健康診断・後期高齢者健康診断での心電図検査の推進
・ 自治体における、高齢者に対する心電図検査の実施の促進
・ 健診での高齢者に対する心電図検査の実施を促すための、国による環境整備の推進
(2)日常診療における心房細動のスクリーニングの促進
・ かかりつけ医の日常診療における脈拍触診によるスクリーニング/高齢者への心電図検査の実施
・ 心房細動の早期発見のための、かかりつけ医と循環器専門医の連携体制の整備
(3)心房細動の症状・脳梗塞予防の重要性、脈拍触診、心電図検査等に関する市民啓発
・ 自治体を中心とした、メディア、市民向けイベントの開催などによる市民啓発活動を通じた、心房細動の早期発見の促進
(4)心房細動の早期発見のための地域連携の推進
・ 心房細動の早期発見、および脳卒中発症予防のための、病院、診療所、リハビリ施設、介護施設、保健センターなどの地域の施設間における「顔の見える」連携の促進

提言2: 健康診断で心房細動を指摘された後の受診率向上のために
(1)心房細動患者への個別受診勧奨の実施
・ 自治体/保険者による、健診・レセプトデータを活用した心房細動患者への個別受診勧奨の実施
・ 受診患者の適切な評価・治療を促進する連携体制の整備

提言3: 適切な抗凝固療法の推進のために
(1)適切な治療選択に向けた、かかりつけ医・循環器専門医間の医療連携の推進
・ 連携パスなどによる地域基幹病院、循環器専門医、かかりつけ医の連携体制の構築
・ 医療連携を推進するための、診療報酬による評価など、行政による支援・推進
(2)アドヒアランス*向上に向けた、患者への情報提供の推進
・ 治療における、患者の主体的な意思決定への参加、および適切な治療継続を促すための、かかりつけ医・循環器専門医による、心房細動や抗凝固療法への十分な情報提供の実施
・ 医師と薬剤師の連携による、患者への適切な服薬管理・指導の実施

[Terahata]
side_メルマガバナー

「特定保健指導」に関するニュース

2025年07月28日
日本の「インターバル速歩」が世界で話題に 早歩きとゆっくり歩きを交互に メンタルヘルスも改善
2025年07月28日
肥満と糖尿病への積極的な対策を呼びかけ 中国の成人男性の半数が肥満・過体重 体重を減らしてリスク軽減
2025年07月28日
1日7000歩のウォーキングが肥満・がん・認知症・うつ病のリスクを大幅減少 完璧じゃなくて良い理由
2025年07月28日
【妊産婦を支援】妊娠時に頼れる人の数が産後うつを軽減 妊婦を支える社会環境とメンタルヘルスを調査
2025年07月22日
【大人の食育】企業や食品事業者などの取り組み事例を紹介 官民の連携・協働も必要 大人の食育プラットフォームを立ち上げ
2025年07月22日
高齢者の社会参加を促すには「得より損」 ナッジを活用し関心を2倍に引き上げ 低コストで広く展開でき効果も高い 健康長寿医療センター
2025年07月18日
日本人労働者の3人に1人が仕事に影響する健康問題を経験 腰痛やメンタルヘルスなどが要因 働きながら生産性低下を防ぐ対策が必要
2025年07月18日
「サルコペニア」のリスクは40代から上昇 4つの方法で予防・改善 筋肉の減少を簡単に知る方法も
2025年07月14日
適度なアルコール摂取は健康的? 大量飲酒の習慣は悪影響をもたらす お酒との良い関係
2025年07月14日
暑い夏の運動は涼しい夕方や夜に ウォーキングなどの運動を夜に行うと睡眠の質は低下?
アルコールと保健指導
無料 メールマガジン 保健指導の最新情報を毎週配信
(木曜日・登録者11,800名)
登録者の内訳(職種)
  • 医 師 3%
  • 保健師 47%
  • 看護師 11%
  • 管理栄養士・栄養士 19%
  • その他 20%
登録はこちら

ページのトップへ戻る トップページへ ▶