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「アディポネクチン」が食欲を抑える 血糖値が高いと作用が切り替わる
2016年08月24日

自治医科大学は、血糖値の高低により、「アディポネクチン」が食欲を調整する作用が切り替わることを世界ではじめて発見した。空腹で血糖値が低い時にアディポネクチンを脳に投与すると、食欲が抑えられ食事の摂食量を減らせるという。空腹時の過剰な食欲を抑える治療の開発につながる成果だ。
アディポネクチンがインスリンの働きを助ける
「アディポネクチン」は、脂肪細胞が分泌するホルモンで、脂肪を燃焼してインスリンの働きを助けて糖尿病を改善する作用がある。最近の研究では、血管を修復したり、脳に作用し、食欲やエネルギー代謝を調節するメカニズムがあることが解明されている。
「インスリン抵抗性」は、インスリンは分泌されていても、それを体が上手に利用できなくなっている状態をさす。大きな要因は、高カロリーの食事、運動不足などが原因で起こる内臓脂肪型肥満だ。
インスリンが効きにくくなる一因は、脂肪細胞が肥大して善玉ホルモンのアディポネクチンが出なくなることだ。アディポネクチンの分泌が低下している2型糖尿病のマウスにアディポネクチンを補充すると、糖尿病は改善する。
アディポネクチンが肝臓や筋肉などの細胞で、どのようにインスリン感受性を向上させているのかを解明する研究が進められている。肥満に伴いアディポネクチンの分泌が低下し、インスリン抵抗性の原因となることを、門脇孝・東京大学大学院医学系研究科教授が世界にさきがけて提唱した。
アディポネクチンには食欲を亢進する作用と抑制する作用がある
アディポネクチンの脳への作用として、食欲を亢進する作用と抑制する作用の両方があり、どのような環境でこの作用が切り替わるのか分かっていなかった。
そこで自治医科大学などの研究チームは、血糖値(グルコース濃度)の高低によって、アディポネクチンの作用が食欲の亢進と抑制に切り替わることを世界ではじめて明らかにした。この研究は、同大学医学部統合生理学部門の矢田俊彦教授と須山成朝助教、東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科の門脇孝教授と窪田直人博士らの研究グループによるもの。研究成果は、科学誌「Scientific Reports」に発表された。
脳の弓状核という部分の神経細胞にある酵素「ナトリウム―カリウムポンプ」が食欲を調整することはわかっていたが、詳しい仕組みは分かっていなかった。研究チームは、ラットに丸1日えさを与えないと、この酵素の働きが低下するが、酵素の働きを高めると、空腹状態のラットでも食べる量が減ることを確かめた。
血糖値が低い状態では、アディポネクチンは視床下部の「弓状核POMCニューロン」を活性化する。これに対応し、空腹/低血糖時にアディポネクチンを脳室内へ投与すると食べる量が減少するという。この作用は、空腹/低血糖時の過剰な食欲を弱める働きがあると推定されている。
反対に、血糖値が高い状態では、アディポネクチンはPOMCニューロンを抑制。これに対応し、グルコースと同時に投与したアディポネクチンは摂食量を増加した。
血糖値が低い時にアディポネクチンを投与すると食欲を抑えられる
今回の発見は、血糖値の高低によりアディポネクチン作用の性質が変化するという、生体コントロールをダイナミックに調整する仕組みを解明したものだ。
こうした作用は、過剰な満腹感を弱めて摂食が可能な時に効率よくエネルギーを取り込む、動物に備わっている生存戦略で、飢餓の時代を生き延びるうえでは必要だった。しかし食物の豊富な現代では、2型糖尿病の増加という事態をまねていている。
さらに、研究グループは、アディポネクチンのPOMCニューロン活性化および抑制作用を仲介する細胞内シグナル伝達系として、それぞれPI3キナーゼおよびAMP依存的キナーゼを同定し、作用の切り替えの分子機構も明らかにした。
善玉ホルモンのアディポネクチンの効果を得るためには、肥満を解消するとともに、血糖コントロールを改善することも必要だ。今回の発見は、肥満や摂食障害(過食症、拒食症)の新たな治療の開発につながる成果だ。
肥満治療に使う薬は神経伝達物質に働きかけるタイプが多く、うつ病などの副作用が出る心配があった。今回の発見により、食欲だけを狙った、副作用の少ない薬の開発が目指されている。
自治医科大学医学部統合生理学部門
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