日常診療におけるバイオマーカーとしての尿中L-FABPの有用性と可能性
運動とL-FABP
次に、運動の話題を取り上げてみたい。かつて腎疾患の治療において運動は推奨されず、むしろ制限することが多かった。しかし現在では腎臓リハビリテーション学会の設立に象徴されるように、運動の重要性が強調されるようになっている。我々も以前、GFRが30mL/分/1.73m2未満という進行したCKD患者であってもL-FABPを上昇させない中等度負荷の運動であれば安全に施行できることを報告している12)。ここでは最近発表された健常者を対象とした筑波大の論文を紹介する。
非CKDの中高年者を運動習慣の有無で2群に分けると、クレアチニンやシスタチンCによるeGFR、尿アルブミンには群間差がなかったが、L-FABPのみ有意な群間差が認められた13)。さらに12週間の有酸素運動を指導したとろころ、血圧の低下とともに腎関連マーカーではやはりL-FABPのみ有意な低下が認められた(図7)。
また別の報告では、運動耐容能の指標である最大酸素消費量や握力との関連を検討したところ、その双方と有意な関連があるのは前記3指標のうちL-FABPのみであった14)。腎機能低下と運動耐容能低下のメカニズムの関連を解明する上で興味深い知見である。
L-FABPはAKIの早期マーカーであり、糖尿病その他のCKDで腎障害の進展や生命予後を反映するマーカーである。しかし現時点において、L-FABPを指標とする治療介入が予後改善につながるのか否かという点の検討は十分になされていない。先述のように最近、汎用自動分析装置を用いて院内で簡便にL-FABPを測定できるようなったので、今後より多くの先生方の日常診療にお使いいただき、その臨床の中から新たな知見が集積され、さらに有用なツールとなることを期待している。
参考文献
1) Am J Pathol 178:1021-1032,2011
2) Kidney Int 72:348-358,2007
3) Kidney Int 73:1374-1384,2008
4) Biochem Biophys Res Commun 161:448-455,1989
5) Int J Biochem Cell Biol 33:865-876,2001
6) J Lipid Res 43:646-653,2002
7) Mol Cell Biochem 284:175-182,2006
8) Clin Chem Lab Med 52:537-546,2014
9) Diabetes Care 34:691-696,2011
10) Diabetes Care 33:1320-1324,2010
11) Diabetes Care 36:2077-2083,2013
12) Jpta 45th:Se2-021,2010
13) Scand J Med Sci Sports. 2017 Mar 1. [Epub ahead of print]
14) Clin Exp Nephrol. 2017 Feb 14. [Epub ahead of print]
初 出
第60回日本腎臓学会学術総会
ランチョンセミナー 18 第7会場( 仙台国際センター 会議棟 白檀2)
演題:集中治療における急性腎障害バイオマーカー ~L-FABPの可能性~
座長:諏訪部 章 先生(岩手医科大学 医学部臨床検査医学講座 教授)
演者:木村 健二郎 先生(独立行政法人地域医療機能推進機構 東京高輪病院 院長)
共催:積水メディカル株式会社
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