急性心腎症候群の管理 ~虚血ストレスマーカー L-FABPの可能性~
腎機能低下を確認してAKI発症を判断するという診断法への疑問
まずAKIの診断については、RIFLEやAKIN、KDIGOという基準がある中で、予後予測に優れるとの理由から同ガイドラインはKDIGO基準を推奨している。ただし、それら基準のいずれも血清クレアチニンと尿量を参考に診断する。つまり、血清クレアチニンが上がるか尿量が減らなければAKIを判断できないのだ。このことに「果たしてそれでいいのか」という強い疑問を個人的に抱いている。本来ならより早期に判別可能なマーカー、特に腎尿細管機能のマーカーとセットで診断すべきではないだろうか。
ところで、急性心不全は英語でいうと"Acute Heart Failure Syndromes"となり、'Syndrome'にさらに's'が付くほど複雑な病態だ。しかし、あえてシンプルに理解するなら、心原性の肺水腫、全身的な溢水、そして低心拍出に伴う低灌流という三つの表現型に集約できる。目の前の患者がこの三つのうちどの要素が強いのか判断し、時間経過や治療介入により変わっていく病態を逐次再評価して、治療をアレンジしていくというのが急性期医療だ。
そのような流れの中、腎臓の変化をどう見抜いていくかが鍵となる。中でも近年、急性期におけるうっ血の重要性を再認識させる報告が増えている。例えば我々のATTENDにおいても頸静脈怒張と下腿浮腫がともにあれば院内総死亡率および心臓死がともに倍に跳ね上がる2)。また、EVEREST研究などでも同様の報告がある3)。水をしっかり引くことがいかに大切かということだ。
急性心腎症候群において血行動態を左右する諸因子
では、急性心不全ではどのように腎機能が低下するのだろうか。考えられるメカニズムを表1にまとめた。このような多くの要因が複雑に絡み合って急性心腎症候群が起きてくるわけだ。これらの要因の中で血行動態に関するものについて順に掘り下げてみたい。
- 血行動態 / 病態生理学的因子
- 低酸素血症
- 腎臓うっ血
- 腹腔内圧
- 低心拍出量
- 体液性因子
- アデノシン遊離
- 神経ホルモン異常(アドレナリン、アトロピン、エンドセリン、他)
- 内因性血管拡張因子の放出/感受性の変化(Na利尿ペプチド、一酸化窒素)
- 心不全に関連する神経ホルモン活性による無症候性の腎機能低下
- 血圧低下
- 過剰な利尿に伴う血液量減少
- ループ利尿薬用量
- ACE阻害薬の早期導入
- 腎血管硬化症
- 糖尿病
- 腎機能低下の既往
まずは低酸素血症だが、急性心不全患者の6割以上が起座呼吸を呈して入院するとされ、低酸素状態にさらされている。東京CCUネットワークのデータでは救急要請からの搬送時間が45分を超えると院内死亡率がほぼ倍になり4)、患者をいかに早く低酸素状態から回復させるかが重要であるとわかる。
次に腎臓うっ血だが、これが注目されるようになったのは2009年に、心不全患者のWRF(worsening renal function)にとって中心静脈圧の上昇が重要なファクターであることが報告されてからである5)。この論文に続き、ラットの下大静脈を結紮すると腎近位尿細管が腫れ、結紮解除により腫れが引くといった実験レベルの報告もなされている6)。
次の腹腔内圧に関しては、救急領域では古くから平均動脈圧と腹腔内圧からGFRを推定する計算式もあるほど、腎機能との関連が深い。腹腔内圧が8mmHgを超えただけで腎機能低下が有意になるとする報告もある7)。
さらに低心拍出量については、心不全患者の1割が該当し、血圧100mmHg未満でCCUに入った患者の院内死亡率は20%に及ぶことが、世界中の心不全レジストリーにほぼ共通するデータとして知られている。ただしこのような腎前性の機序で腎機能低下が進行するケースは決して多くはなく、先に述べた低酸素や臓器うっ血等の複合的な要因が重複していることが多く、それをどう評価するかが問題となる。
急性期医療においては時間軸が極めて重要なファクターである
このように数々のファクターが介在する急性心腎症候群にはそれだけ多角的な治療が求められるわけだが、同時に重要なことは、時間軸を念頭におくことである。
ATTENDレジストリーの急性心不全入院患者を、24時間以内に強心薬を用いた患者とそうでない者に分けると、院内死亡率、180日予後のいずれも有意差があり8)、米国の10万例を超える心不全レジストリーからも同様のデータが報告されている9)。このような知見を反映し、2016年に改訂された欧州心臓病学会の心不全ガイドラインも、時間軸を考慮した治療が強調されたものになった10)。腎機能の低下が心不全を悪化させ、そのために腎機能がさらに低下するという悪循環を早期に遮断しなければならない。
では、少しでも早く治療を開始し血圧を急速に下げれば良いのかというとそうではない。急激に血圧を下げれば当然のように尿量の減少が起きGFRは低下する。それをできるだけ回避しつつ腎保護のための適切な血圧を保つ必要がある。しかしその'適切な血圧'は腎臓の状態によって変化し、事前に見抜くことはできない。だからこそ迅速なバイオマーカーが必要になるわけだ。


「健診・検診」に関するニュース
- 2025年02月25日
- 【国際女性デー】妊娠に関連する健康リスク 産後の検査が不十分 乳がん検診も 女性の「機会損失」は深刻
- 2025年02月17日
- 働く中高年世代の全年齢でBMIが増加 日本でも肥満者は今後も増加 協会けんぽの815万人のデータを解析
- 2025年02月12日
-
肥満・メタボの割合が高いのは「建設業」 業態で健康状態に大きな差が
健保連「業態別にみた健康状態の調査分析」より - 2025年02月10日
-
【Web講演会を公開】毎年2月は「全国生活習慣病予防月間」
2025年のテーマは「少酒~からだにやさしいお酒のたしなみ方」 - 2025年02月10日
- [高血圧・肥満・喫煙・糖尿病]は日本人の寿命を縮める要因 4つがあると健康寿命が10年短縮
- 2025年01月23日
- 高齢者の要介護化リスクを簡単な3つの体力テストで予測 体力を維持・向上するための保健指導や支援で活用
- 2025年01月14日
- 特定健診を受けた人は高血圧と糖尿病のリスクが低い 健診を受けることは予防対策として重要 29万人超を調査
- 2025年01月06日
-
【申込受付中】保健事業に関わる専門職・関係者必携
保健指導・健康事業用「教材・備品カタログ2025年版」 - 2024年12月24日
-
「2025年版保健指導ノート」刊行
~保健師など保健衛生に関わる方必携の手帳です~ - 2024年12月17日
-
子宮頸がん検診で横浜市が自治体初の「HPV検査」導入
70歳以上の精密検査無料化など、来年1月からがん対策強化へ