ニュース
メタボや高血糖の原因は「恒常性維持機構」の異常 新たな治療法を開発
2018年07月03日

九州大学と東京大学の研究グループが、血中のインスリン濃度の変化によって、肝臓でインスリン作用に関わる分子が個別に調整されていることを発見した。
血糖値を一定に保つ「恒常性維持機構」を解明することで、糖尿病の新たな治療法を開発できる可能性がある。
血糖値を一定に保つ「恒常性維持機構」を解明することで、糖尿病の新たな治療法を開発できる可能性がある。
糖尿病の原因は「恒常性維持機構」の破綻
体には、体の中と外の環境の変化に対応しながらも体の内部環境をできるだけ一定に保とうとするメカニズム、すなわち「恒常性維持機構」(ホメオスタシス)が備わっている。これは生命現象の基本原理のひとつだと考えられている。
正常であれば、恒常性維持機構の働きにより、血圧や血糖値は一定の範囲内に保たれる。それ破綻すると、2型糖尿病や肥満、メタボリックシンドロームが引き起こされる。
九州大学生体防御医学研究所の久保田浩行教授の研究グループは、東京大学の黒田真也教授との共同研究により、血中のインスリン濃度の変化によって、肝臓でインスリン作用に関わる分子が個別に調整されていることを明らかにした。
2型糖尿病の原因のひとつは、インスリン分泌の時間パターンの異常がもたらす恒常性維持機構の破綻だと考えられる。研究グループは、そのメカニズムを明らかにすることを目指している。
周期的なインスリン分泌が低下すると糖新生抑制に
インスリンは血糖値を下げる作用をもつ唯一のホルモンで、その作用の異常は糖尿病の発症に強く関係している。
インスリンの分泌パターンには、食後に分泌される「追加分泌」、空腹時にも微量に「基礎分泌」がある。さらに、「10~15分周期」といった周期的な分泌もあり、血糖値の変化に影響している。
研究グループによると、2型糖尿病の初期では追加分泌が減少し、基礎分泌が増加する。また、糖尿病を発症すると「10~15分周期」の分泌が失われやすい。
この周期的な分泌が低下すると、肝臓からの糖新生の抑制や筋肉などによる糖の取り込みが妨げられ、血糖値が上昇しやすくなる。血糖コントロールでは重要だと考えられている。
臓器間ネットワークが「恒常性維持機構」を調整
一方、体重の約2%を占める肝臓は最大の臓器で、体の糖・脂質の代謝の恒常性を維持するために中心的な役割を果たしている。肝臓での糖・脂質代謝の異常は、2型糖尿病や脂質異常症などに直結する。
たとえば非アルコール性脂肪性肝疾患などの肝臓疾患に、2型糖尿病などによる代謝異常が大きく影響する。体と肝臓の代謝の調節とその破綻が、たがいに密接に関連していると考えられている。
現在の研究では、脳、肝臓、脂肪、筋肉といった臓器の間で、それまで知られていなかった「臓器間ネットワーク」があることが分かってきた。そのネットワークが、恒常性維持機構を調整している。
これらの臓器間ネットワークは、栄養過多が常態化している現代では破綻しやすい。体内に内在している恒常性維持機構が機能しなくなると、2型糖尿病や肥満、メタボリックシンドロームが引き起こされる。
この臓器間ネットワークがどんな物質によって介在されているのかを明らかにできれば、体におけるエネルギー・糖代謝の恒常性がどう維持されているかについて、新しい仕組みが分かると考えられている。
インスリンを調整する臓器間ネットワークを解明
これまでの研究で、肝臓と脳、膵臓とリレーされる臓器間ネットワークがあることや、肝臓に脂肪が蓄積すると、インスリンの効きが悪くなるインスリン抵抗性が全身に広がることも分かっていた。
恒常性維持機構は非常に広範かつ複雑なメカニズムであるため、最近まで詳しく分かっていなかった。それが、処理能力の高いスーパーコンピューターが研究に使われるようになり、統合的に理解できるようになってきた。
この恒常性がひとたび破綻し、高血糖や高血圧になった場合であっても、それは同様なメカニズムによって修復される、つまり病気を自分自身で治癒に導く力があると考えられている。
今回の研究は、肝臓のみで機能する血糖値の調節に重要な重要をする経路を解明したものだ。
肝臓を中心する臓器間ネットワークのメカニズムを明らかにし、インスリン代謝をコントロールする臓器間ネットワークを解析することで、血糖値の調節メカニズムを新たに解明できる可能性がある。
2型糖尿病やメタボリックシンドロームなどの新たな治療法の開発につなげることが期待されている。
九州大学生体防御医学研究所In Vivo Decoding Mechanisms of the Temporal Patterns of Blood Insulin by the Insulin-AKT Pathway in the Liver(Cell Systems 2018年6月27日)
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。©2009 - 2022 SOSHINSHA All Rights Reserved.
「健診・検診」に関するニュース
- 2021年12月21日
- 特定健診・保健指導の効果を10年間のNDBで検証 体重や血糖値が減少し一定の効果 ただし体重減少は5年後には減弱
- 2021年12月21日
- 【申込開始】今注目のナッジ理論、感染症に関する教材が新登場!遠隔指導ツールも新作追加! 保健指導・健康事業用「教材・備品カタログ2022年版」
- 2021年12月13日
- 【新型コロナ】ファイザーのワクチンの3回目接種はオミクロン株にも効く? 抗体価は半分に減るものの2回接種より25倍に増加
- 2021年12月09日
- 保健師など保健衛生に関わる方必携の手帳「2022年版保健指導ノート」
- 2021年11月16日
- 思春期に糖質を摂り過ぎると成長後にメンタルヘルスに悪影響が 単純糖質の摂り過ぎに注意が必要
- 2021年11月09日
- 【世界糖尿病デー】東京都「今日から始めよう!糖尿病予防」キャンペーン 都民の4人に1人は糖尿病かその予備群
- 2021年11月08日
- 肥満のある人・肥満のない人の両方に保健指導が必要 日本人4.7万人の特定健診データを解析
- 2021年11月02日
- 【新型コロナ】ワクチン接種はコロナ禍を終わらせるための重要なツール 50歳以上で健康やワクチンに対する意識が上昇
- 2021年11月02日
- 健診や医療機関で腎臓の検査を受けていない高齢男性は透析のリスクが高い 7万人弱を5年間調査
- 2021年10月26日
- 「特定健診受診率向上プロジェクト」を実施 大阪府と大阪府立大学看護学科が協働 特定健診の対象者に合わせた効果的な受診勧奨
最新ニュース
- 2022年05月23日
- 【新型コロナ】保健師がコロナ禍の拡大を食い止めている 保健師の活動が活発な地域では罹患率は減少
- 2022年05月23日
- 【新型コロナ】起床・朝食が遅くなった子供で運動不足や栄養バランスの乱れが 規則正しい食事・睡眠が大切
- 2022年05月23日
- 【新型コロナ】コロナ禍で結婚数と出生数が減少 将来に対する不安や経済的な悩みが原因?
- 2022年05月23日
- 【子宮頸がん】HPVワクチンの予防効果は優れている 接種9年後の感染率は0% ワクチンの有効率は100%
- 2022年05月23日
- 余暇に軽い身体活動をするほど健診結果は良くなる 活動量の実測データにもとづく世界初の研究
~保健指導・健康事業用 教材~
-
アイテム数は3,000以上! 保健指導マーケットは、健診・保健指導に役立つ教材・備品などを取り揃えたオンラインストアです。 保健指導マーケットへ