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高血圧・糖尿病が「認知症」を加速させる 女性の腎臓病はリスクが高い

 認知症の前段階とされる「軽度認知障害」(MCI)から認知症に進行するのを防ぐには、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの改善が重要で、その効果は女性で顕著であることが、東京大学の研究チームの調査で明らかになった。
高血圧・糖尿病が「認知機能障害」を加速させる
 「軽度認知障害」(MCI)は、認知症と正常の中間にある状態。物忘れが主な症状で、日常生活への影響は少ないが、認知症に進行しやすいので注意が必要だ。軽度認知障害をもつ人が高血圧や糖尿病を併発していると、認知症を発症する危険性が高まることが過去の研究でも明らかになっている。

 「J-ADNI」研究は、2008年より日本で開始されている大規模研究。認知機能が正常な高齢者、軽度認知障害、アルツハイマー型認知症と認知機能の低下が進行していく過程を経時的に追跡し、どのような人で認知機能の低下が進行しやすいかを調べている。データはバイオサイエンスデータベースセンターで公開されている。

 研究チームは今回の研究で、J-ADNI研究に参加した全国38施設の537人を対象に、認知機能や採血データ、脳画像データなどが最長で3年間、追跡調査した。

 234人の"ものわすれ"を主体とする「軽度認知障害」の人の認知機能を調査し、認知機能の低下に関与する要素をさまざまな角度から検討した結果、性差、教育歴がその進行に影響をもつことを突き止めた。

 解析したところ、軽度認知障害の女性の認知機能は、男性に比べて速く悪化することが分かった。教育年数の長い男性の被験者では悪化は緩徐だった。

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アルツハイマー病以外の軽度認知障害の要因
 軽度認知障害の背景にはさまざまな疾患がある。アルツハイマー病を背景としていると、進行は早くなる。しかし、脳脊髄液検査やアミロイドPET検査によって背景にアルツハイマー病があるかを調べたところ、男性では62.9%、女性では69.1%と大きな差がみられなかった。

 試験に参加したすべての人を対象にAPOE遺伝子の多型を評価した。これはアルツハイマー病のもっとも強い遺伝的な危険因子だ。その結果、危険因子の保有者の率は、男性で50.0%、女性で54.2%と、やはり大きな差はなかった。

 これらのことから、軽度認知障害の悪化の背景に、アルツハイマー病ではなく、それ以外の要因があると考えられる。

 一方で、教育年数での比較では、16年以上の教育(大学卒業以上)を受けた人の進行が遅いことが分かった。性別でみたところ、この効果は男性で強かった。このことから、教育年数が長いことで男性では認知予備能が培われている可能性がある。

 認知予備能とは、脳に生じた病理学的な変化に抵抗する認知機能の予備能力のこと。つまり、多少脳が障害されても症状を出さずにいられるための力のこと。
脳の慢性虚血性変化の原因は加齢、高血圧、糖尿病
 軽度認知障害の背景にはアルツハイマー病以外の疾患も含まれる。調査では、軽度認知障害の女性が悪化しやすい要因として、慢性腎臓病の影響が強いことが判明した。その理由として、長年の高血圧や動脈硬化によって脳の小血管の障害をきたし、認知機能障害が進行しやすくなることが考えられる。

 女性で進行が早い原因をさらに追求した結果、慢性腎臓病が進行していると、軽度認知障害の進行が早いことが分かった。慢性腎臓病のG1(正常)からG5(末期腎不全)までのグレードのうち、研究の参加者にはG1からG3(中等度低下)までの人が含まれた。

 このうち、グレードがG1の女性はG2(軽度低下)以上の女性に比べて、進行が遅いことが分かった。その理由として、G2以上の女性は微小な動脈硬化性の病変、すなわち慢性虚血性変化が脳で生じやすく、認知機能の悪化に拍車をかけているためと考えられる。

 脳の非常に細い血管は加齢とともに変質し、小さな血管の閉塞を起こす。最初のうちはほとんど症状が出ないが、徐々に蓄積していき、脳のMRIを撮像するとこれらを信号の異常として捉えることができるようになる。こうした脳の慢性虚血性変化の原因は加齢、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙とみられており、それらの治療・管理が重要とされている。

 「今回の研究の結果から、日本人では高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病の改善が、軽度認知障害から認知症への移行の抑制に重要であり、その影響はとくに女性で強いことが示されました」と、研究者は述べている。

 研究は、東京大学医学部附属病院神経内科の岩田淳氏、東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻神経病理学の岩坪威教授らによるもの。詳細は医学誌「Alzheimer's and Dementia: Translational Research & Clinical Interventions」に発表された。

関連情報

東京大学医学部附属病院神経内科
Effects of sex, educational background, and chronic kidney disease grading on longitudinal cognitive and functional decline in patients in the Japanese Alzheimer's disease neuroimaging initiative (ADNI) study(Alzheimer's and Dementia: Translational Research & Clinical Interventions 2018年7月13日)
東京大学COI - 自分で守る健康社会拠点
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