ニュース
家庭での食塩摂取量が多いと心臓病や脳卒中のリスクが上昇 家族ぐるみで減塩に取組むことが必要
2019年11月27日
滋賀医科大学は、家庭での食塩摂取量が多いと、その家族が将来に心臓病や脳卒中などの循環器病を発症しやすくなり、死亡リスクが高くなるという調査結果を発表した。日本人8,702人を24年間追跡して調査した「NIPPON DATA」研究の成果だ。
家庭の味付け(塩味の濃さ)は家族で共有される
家族は同じ食事をいっしょに摂る機会が多く、家庭の味付け(塩味の濃さ)は家族で共有されることが多い。また、食卓に並んだ料理(家庭で調理された味噌汁や煮物などの日本食、近年増加している購入した加工食品など)の味付けは、家族を構成する個人が調整するのは難しい。
そこで研究グループは、世帯単位の食塩摂取量がその後の循環器病による死亡リスクと関連するかを調べた。世帯単位の調査は世界でもほとんど行われていない。
食塩(ナトリウム)摂取量が多いほど、将来に脳卒中・冠動脈疾患などの循環器病を発症するリスクが高まることは、多くの研究で明らかになっている。また、日本では、家庭内調理で用いられる調味料が大きな食塩摂取源となっている。
研究は、滋賀医科大学社会医学講座公衆衛生学部門教授・アジア疫学研究センターセンター長の三浦克之氏らの研究グループによるもの。研究成果は、日本高血圧学会の学会誌「Hypertension Research」電子版に公開された。
関連情報
日本人8,702人を24年間追跡して調査
家庭での食塩摂取量が多いほど循環器病のリスクは上昇
その結果、世帯の食塩摂取密度の平均は6.25±2.02g/1000kcalで、期間中の総死亡は2,360人(循環器病死亡は787人、冠動脈疾患死亡は168人、脳卒中死亡は361人)だった。
解析した結果、世帯食塩摂取密度が2g/1000kcal上昇するごとに、死亡リスクは、総死亡で1.07倍、循環器病死亡で1.11倍、冠動脈疾患死亡で1.25倍、および脳卒中死亡で1.12倍と、それぞれ上昇した。
また、対象者を世帯食塩摂取密度の四分位により4群(Q1~Q4)に分けて比較した。もっとも塩味が薄い群をQ1、もっとも塩味が濃い群をQ4とした。
その結果、世帯食塩摂取密度が高いほどリスクが高くなることが分かった。冠動脈疾患による死亡は、Q1に比べQ4では1.49倍に上昇した。脳卒中による死亡は、Q1に比べQ4では1.39倍に上昇した。
家族ぐるみで減塩に取り組むことが重要
世帯食塩摂取密度が高いほど、脳卒中や心臓病などの循環器病、心筋梗塞などの冠動脈疾患、脳卒中のそれぞれのリスクが高くなることが明らかになった。
減塩は日本人全員が意識して取り組むべきものだ。研究グループは、「国民全体の食塩摂取を減らしていくためには、家族ぐるみで、減塩という視点から対策することが大変に重要です」と述べている。
食塩摂取量と血圧は密接に関係し、食塩の過剰摂取が高血圧をもたらす。糖尿病患者向けの治療ガイドラインでは、糖尿病の合併症の危険性を抑えるために、塩分摂取量を控えることが勧められている。
「日本人の食事摂取基準 2020年版」では、食塩摂取の目標量は男性 7.5g/日、女性 6.5g/日未満としている。高血圧を発症した人では目標量は6.0g/日未満だ。一方、日本人の塩分摂取量の平均は、男性 10.8g、女性 9.1gで、目標よりも大幅に多い。
1日の食塩量は、調味料などにより加えられる食塩と、もともと食品に含まれている食塩を合計した量だ。ただし、調理されてしまった食塩は目で見えるものではなく、塩分の多い濃い味付けに慣れてしまうと、減塩するのは難しくなる。
毎日の食事で塩分の少ない薄味に慣れる必要がある。香辛料・薬味を使えば、塩分が少なくとも、味わいが深くなり満足しやすくなる。
加工食品に塩分量を表示 美味しい減塩食「かるしおレシピ」
減塩への取組みは広がりつつある。日本では、コンビニ弁当などの加工食には栄養表示があるものが多いが、従来はナトリウムの量の表示のみが義務付けられていて、食塩相当量が分かりにくかった。
それが、日本高血圧学会などの働きがけにより、栄養表示の「ナトリウム」は「食塩相当量」で表示されることになった。2020年までに、新基準の栄養表示が見られることになる。
減塩調味料や減塩食品の利用するのもひとつの方法だ。日本高血圧学会のホームページでは、日本の代表的な減塩食品の一覧を見ることができる。
また、国立循環器病研究センターは、心筋梗塞や脳卒中などの循環器病を予防するために、無理なく減塩するための食事調理法「かるしおレシピ」を考案した。「食塩を減らしても美味しい」ではなく「食塩を控えるからこそ美味しい」というコンセプトで作成したという。
毎日の家族の食事として続けるために、「美味しく楽しめる」ことや、「子供のうちから素材の味を理解し、味覚を育てる」ことが必要だとしている。
NIPPON DATA(滋賀医科大学 公衆衛生学部門)Relationship of household salt intake level with long-term all-cause and cardiovascular disease mortality in Japan: NIPPON DATA80(Hypertension Research 2019年11月21日)
さあ、減塩!(日本高血圧学会減塩委員会)
日本高血圧学会:一般のみなさま向けの情報
かるしおプロジェクト(国立循環器病研究センター)
かるしおレシピ(国立循環器病研究センター)
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。©2009 - 2024 SOSHINSHA All Rights Reserved.
「健診・検診」に関するニュース
- 2024年04月25日
-
厚労省「地域・職域連携ポータルサイト」を開設
人生100年時代を迎え、保健事業の継続性は不可欠 - 2024年04月22日
- 【肺がん】進行した人は「健診やがん検診を受けていれば良かった」と後悔 早期発見できた人は生存率が高い
- 2024年04月18日
- 人口10万人あたりの「常勤保健師の配置状況」最多は島根県 「令和4年度地域保健・健康増進事業の報告」より
- 2024年04月18日
- 健康診査の受診者数が回復 前年比で約4,200人増加 「地域保健・健康増進事業の報告」より
- 2024年04月09日
- 子宮の日 もっと知ってほしい子宮頸がんワクチンのこと 予防啓発キャンペーンを展開
- 2024年04月08日
- 【新型コロナ】長引く後遺症が社会問題に 他の疾患が隠れている例も 岡山大学が調査
- 2024年03月18日
- メタボリックシンドロームの新しい診断基準を提案 特定健診などの56万⼈のビッグデータを解析 新潟⼤学
- 2024年03月11日
- 肥満は日本人でも脳梗塞や脳出血のリスクを高める 脳出血は肥満とやせでの両方で増加 約9万人を調査
- 2024年03月05日
- 【横浜市】がん検診の充実などの対策を加速 高齢者だけでなく女性や若い人のがん対策も推進 自治体初の試みも
- 2024年02月26日
- 近くの「検体測定室」で糖尿病チェック PHRアプリでデータ連携 保健指導のフォローアップなどへの活用も