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3月12日は「世界腎臓デー」 腎臓病とともに生きる人は10人に1人 早期発見・治療が大切

 3月12日は「世界腎臓デー(World Kidney Day)」だ。世界の成人の10人に1人にあたる8億5,000万人が腎臓病とともに生きている。
成人の10人に1人が腎臓病
 「世界腎臓デー(World Kidney Day)」は、腎臓病の早期発見と治療の重要性を啓発する国際的な取り組みとして、2006年より国際腎臓学会(ISN)と腎臓財団国際連合(IFKF)により開始された。毎年3月の第2木曜日に実施され、世界各地でイベントが開催されている。

 腎臓病は早期に発見し治療することで予防・改善が可能だ。この日に「糖尿病や高血圧など、腎臓病のリスクの高い人は、食事や運動などの生活スタイルを見直して、適切な治療を受け、検査を定期的に受けてほしい」と呼びかけられる。

透析が必要になった人は1990年から40%以上増加
 日本を含む世界中で腎臓病は増えている。国際腎臓学会によると、世界の腎臓病の有病者数は8億5,000万人に上り、成人の10人に1人が危険にされされている。

 米国のワシントン大学の研究によると、慢性腎臓病(CKD)により死亡した人は2017年には世界で123万人に上り、腎臓病が原因となった心血管疾患で死亡した人は136万人に上る。透析が必要となった人は1990年から40%以上増えている。

 「慢性腎臓病は現在ではありふれていますが、大変に怖い病気です。2017年には世界で死亡者の多い疾患の12位に上昇しました」と、ワシントン大学医学部健康指標評価研究所のテオ ヴォス教授は言う。

 「予防と治療のための戦略が必要です。適切な治療を行い、透析導入を防いだり遅らせることが、医療費の削減にもつながります。しかし、実際には各国の保健システムは十分な対応をできていません。その結果として多くの方が亡くなっています」。

 2020年の「世界腎臓デー」のテーマは「あらゆる場所のすべての人に腎臓の健康を~腎臓病の発症と進行を防ぐための予防的介入」。世界のすべての場所で誰でも腎臓病の検査と治療を受けられるよう、各国政府や保健当局、医療機関などに環境整備を行うことを求めている。

世界の成人の10人に1人が腎臓病
日本人の半数が「慢性腎臓病(CKD)」を知らない
 慢性腎臓病(CKD)は、腎障害を示す所見や腎機能低下が慢性的に続く状態。日本を含む世界中で有病者数が増え続けている。

 日本には、慢性腎臓病の人は1,300万人以上いると推測されているが、症状はかなり進行しないと現れないため、自覚している人は少ないと考えられている。貧血、疲労感、むくみなどの症状があらわれたときには、病気がかなり進行している可能性がある。

 日本腎臓病協会と協和キリンが実施した調査によると、日本人の「慢性腎臓病」を知っている人の割合は50.7%で、とくに若年層(20~30歳代)では43.5%と低かった。健康診断を定期的に受けていない人でも認知度は低かった。

 「糖尿病や高血圧、高脂血症、肥満症は広く認知されています。慢性腎臓病はこれらの疾患とも関連が深く、20~30歳代といった若年期からの生活習慣が発症に大きく影響しています」と、日本腎臓病協会理事長の柏原直樹氏(川崎医科大学副学長、腎臓・高血圧内科学主任教授)は述べている。
透析を防ぐために「隠れ腎臓病」のうちに早期発見
 慢性腎臓病があると、症状がないうちに腎機能が低下する。腎臓の機能は失われると元に戻らない。適切な治療を受けずにいると、腎不全になり、透析や腎移植が必要になる。また、腎臓病は動脈硬化を促し、心筋梗塞、脳梗塞、脳出血など命にかかわる病気の発症リスクも高まる。

 日本でも糖尿病を発症してから10~15年が経過すると、糖尿病性腎症を発症することが多く、糖尿病患者全体の30~40%が罹患しているという報告がある。

 日本では人工透析を受けている患者数は約34万人を超えており、新たに透析治療を始めた患者のうち、糖尿病が原因となった患者がもっとも多く42%以上を占める。

 いわゆる「隠れ腎臓病」のうちに、早期発見・早期治療をすることが重要だ。そのために、尿検査や血液検査を定期的に受けることが大切だ。

 糖尿病や高血圧など、とくに腎臓病のリスクの高い人が、食事や運動などの生活スタイルを見直し、定期的に検査を受け早期に治療を開始することで、腎不全を防ぐことができる。

関連情報
定期的に尿検査や血液検査を受けることが大切
 慢性腎臓病の多くは、尿検査や血液検査で早期に発見できる。

 慢性腎臓病では、腎臓の老廃物を取り除く糸球体が少しずつ壊れていく。その結果、血液中の老廃物が十分に取り除けなくなったり、尿に漏れないはずのタンパクが尿にまじったりする。一定程度以上に壊れてしまった糸球体は、正常に戻すことができない。

 自覚症状の乏しい慢性腎臓病の早期発見に役立つのが、尿中のタンパク質の濃度を調べる尿検査と、血液中のクレアチニンを調べる血液検査だ。

 クレアチニンとは血液中の老廃物のひとつであり、通常であれば腎臓でろ過され、ほとんどが尿中に排出される。しかし、腎機能が低下していると、尿中に排出されずに血液中に蓄積される。この血液中のクレアチニンを「血清クレアチニン値」という。

 しかし、糖尿病が原因の慢性腎臓病は、上記の検査だけでは早期発見できない。なぜなら多量のタンパク尿が検出される以前から糸球体が壊れはじめることが多いからだ。

 早期の段階では、タンパクの主成分であるアルブミンがごくわずか尿に混じる。その「微量アルブミン尿」の検査が早期発見には不可欠だ。糖尿病の人は、かかりつけの医療機関でアルブミン尿の検査を3ヵ月から1年に1回受けることが推奨されている。
腎臓病の予防は、脳卒中・心不全・心筋梗塞の予防にもなる
 腎臓病を防ぐためになによりも大切なのは、血圧値と血糖値、コレステロール値を良好にコントロールすること。血圧値と血糖値が高い状態が長く続くと、心臓に酸素や栄養を供給している冠状動脈の内皮が傷つきやすくなり、同時に腎臓の血管も損傷を受けることになる。

 ▼喫煙習慣がある、▼運動不足である、▼糖尿病、▼高血圧、▼高コレステロール、▼肥満、▼過度のストレス――これらはすべて、心臓病や脳卒中の危険因子だ。これらを改善することは、命に関わる心血管イベントを予防するために役立つだけでなく、腎臓病の予防にも役立つ。これらの疾患の発症のプロセスは共通している。

 「これらの病気は互いに関連し合っています。心臓に良いことは腎臓にも良く、逆もまた同じなのです」と、クリーブランド クリニックの腎臓専門医で高血圧の専門家であるマイケル リウディス氏は言う。

 「腎臓の働きが悪くなっていても、自覚症状がないという人が多いのですが、これはあなたの腎臓が大丈夫ということを意味しているわけではありません。血液検査や尿検査で腎機能が低下しているのが分かった時には、腎臓の健康状態はすでに著しく低下しており、元に戻すのは難しいのです」。
糖尿病性腎臓病(DKD)に注意
 糖尿病を合併する腎臓病の中に、糖尿病性腎症で典型的とみられるアルブミン尿が確認されない症例があり、「糖尿病性腎臓病(DKD)」として注目されている。

 DKDには、加齢や高血圧を背景とした動脈硬化や脂質異常症の関与が推定されていることから、糖尿病性腎症を含む、糖尿病の病態が関与するCKD全般を包括しているとしている。

 日本でも、日本腎臓学会と日本糖尿病学会が2017年に「STOP‒DKD宣言」を発表し、日本におけるDKDの実態調査と病態解明、治療法開発に両学会が協力して取り組んでいる。

 このようにDKDの解明は進められているが、まだ十分な対策は行われていない。DKDを予防し、重症化を抑制するために、かかりつけ医と専門医、多職種の医療スタッフが連携して、行政とも緊密に協力して、治療にあたる必要がある。
糖尿病の治療薬であるSGLT2阻害薬が腎臓を保護
 糖尿病とともに生きる人にとって、良い知らせもある。糖尿病の治療に広く利用されている薬である「SGLT2阻害薬」に、腎臓を保護する作用があるという研究が発表された。SGLT2阻害薬は、腎不全や移植、透析導入、腎臓病による死亡のリスクを抑制するという。

 SGLT2阻害薬は、血液中の糖を尿中に排出させることで血糖値を下げるタイプの2型糖尿病の治療薬。単剤で使用すると低血糖リスクがないことや、体重を減少させる効果が報告されている。

 オックスフォード大学などの研究チームは、3万8,723人が参加した4件のランダム化比較試験の結果を解析。SGLT2阻害薬に、腎疾患からの保護作用があることを確かめた。

 SGLT2阻害薬は、血糖値と血圧値を下げ、体重を減らすのに役立ち、さらに腎臓病の徴候である血中アルブミンを下げる効果も期待できるという。他の研究では、腎機能が低下している患者で脳卒中の発症を減らすことも報告されている。

 現在のところ、SGLT2阻害薬の効能・効果は主に2型糖尿病だ。SGLT2阻害薬が心疾患、脳卒中、腎臓病を予防するために有効かを調べるために、いくつかの大規模な研究が計画されている。
腎臓病治療薬の開発が進められている
 腎臓病の治療のために多く使われているのは、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)といった降圧薬だが、SGLT2阻害薬以外にも治療薬の開発が進められている。

 他にも糖尿病性腎症の治療薬については、「腎機能改善薬」として期待される抗酸化炎症モジュレーターの治験が進行している。

 また、腎臓に作用し体液量のバランスを整えるミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬は、中等度の腎機能障害のある患者やアルブミン尿が出ている2型糖尿病患者においても効果が確かめられている。

 これらの薬の治験が進められており、近い将来に腎臓病の予防・改善に役立つ薬として治療に使われるようになる可能性がある。

世界腎臓デー(World Kidney Day)
Chronic kidney disease a 'global killer in plain sight'(ワシントン大学医学部健康指標評価研究所(IHME) 2020年2月13日)
慢性腎臓病(CKD)の疾患認知度に関するアンケート調査を実施~疾患認知度は全体で50.7%、若年層で低い傾向~(NPO法人 日本腎臓病協会 2020年2月18日)
STOP-DKD宣言(日本腎臓学会)
The Close Link Between Your Heart Health and Kidney Health(クリーブランドクリニック 2020年2月13日)
SGLT2 inhibitors for the prevention of kidney failure in patients with type 2 diabetes: a systematic review and meta-analysis(Lancet Diabetes & Endocrinology 2019年9月5日)
In type 2 diabetes, SGLT-2 inhibitors reduce risk for major kidney outcomes(Annals of Internal Medicine 2020年2月8日)
Study finds drug class provides cardiovascular benefit for all patients with type 2 diabetes(George Institute for Global Health 2020年1月31日)
[Terahata]
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