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【新型コロナウイルス】ワクチン開発はここまで進んでいる 日本人の遺伝子に適合したワクチンや治療薬を開発

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンの開発が世界各国で進められており、日本でも「DNAワクチン」の開発が臨床試験の段階に入った。
 日本人のCOVID-19の重症化に関わる遺伝子を調べ、それに適合したワクチンや治療薬を開発する研究も進められている。
期待がかかるDNAワクチンの開発
 世界保健機関(WHO)によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン開発プロジェクトは、現在世界で120以上が進行中だ。しかし、新型コロナウイルスはウイルス量が少ないため体内で抗体ができにくいなどの背景があり、ワクチン開発は容易ではない。

 世界各国の研究機関・製薬企業がしのぎを削っている中で、いち早く実用化が期待されているのが「DNAワクチン」だ。

 DNAワクチンは、ウイルス本体ではなくウイルスの遺伝子情報のみを投与する方法。ウイルスの遺伝子情報を入れたプラスミドDNAと呼ばれるベクター(運び屋)を体内に入れると、ウイルスが細胞に侵入する際に用いるタンパク質が大量に発生し、それに対して抗体ができるというもの。

 細胞培養や有精卵で製造するワクチンと異なり、DNAワクチンは大量生産が容易で、製造コストも安い。ウイルスそのものではないので病原性はなく、安全であるという利点もある。

 開発したワクチンを国内に安定供給するためには、日本で開発・製造されたワクチンが有利だ。WHOによると、ワクチンができるまで18ヵ月、最短で1年かかるとされている。国内でもワクチン開発が急ピッチで進められている。

 大阪大学発バイオベンチャーのアンジェスは6月に、大阪大学と共同開発したCOVID-19向けのDNAワクチンの第1/2相臨床試験を開始したと発表した。ワクチンの治験は国内初となる。

 ワクチン開発で連携協定を締結した大阪市立大学病院で治験を実施。健康な成人を対象に、筋肉内にワクチンを接種し、安全性と免疫原性を評価する。目標症例数は30症例で、2週間間隔で2回投与する。試験期間は2021年7月31日までを予定している。

 ワクチン量産体制の整備も進められており、製造メーカーはタカラバイオが予定されている。
mRNAワクチンの開発も進行中
 一方で、東京大学医科学研究所が中心となり開発が進められているのは「mRNAワクチン」だ。これは、メッセンジャーRNAを投与するもので、体中でコロナウイルスのタンパク質(抗原)が合成され、免疫が誘導される仕組み。

 mRNAベースのワクチンは化学合成が可能で、タンパク質ベースのワクチンや、ウイルスベクターを用いるワクチンなどに比べて、製造工程の開発などに時間がかからず、安全性も高いと見込まれている。

 日本医療研究開発機構(AMED)が支援し、東大医科研が進めている研究で、mRNAワクチン開発を分担しているのは第一三共。すでに動物モデルを用いた試作ワクチンの評価で、新型コロナウイルスに対して抗体価が上昇していることが確認された。

 ワクチンの供給体制の整備をはかるとともに、2021年3月頃の臨床試験の開始を目指している。
日本を代表する科学者が横断的に集まり研究を推進
 専門家によると、COVID-19のパンデミックは2~3年続き、この秋冬にも流行の第2波が到来する可能性が高い。COVID-19の予防や治療のための研究が急がれている。

 そこで、さまざまな研究分野から日本を代表する科学者が横断的に結集し、「コロナ制圧タスクフォース」が立ち上げられた。慶應義塾大学、大阪大学、東京大学医科学研究所、国立国際医療研究センター、東京医科歯科大学、東京工業大学、北里大学、京都大学などが参加している。

 研究グループが目標としているのは、分子ニードル技術を応用した粘膜ワクチンの開発。これは、鼻腔や舌などの粘膜をターゲットとして経口や鼻腔スプレーで投与し、体内にウイルス抗原を届け免疫を誘導するというもの。注射型ワクチンよりも痛みがなくで実用的だと期待されている。
日本人のCOVID-19の重症化に関わる遺伝子を特定
 ワクチンを開発するために、COVID-19の重症化に関わる日本人特有の遺伝子を特定することが必要になる。そこで研究グループは、COVID-19で重症化した患者と軽症や無症状で終わった患者のすべての遺伝子配列を調べ、両者で違いのある多型を見つけることを目指している。

 COVID-19の重症化に「サイトカインストーム」という現象が関わっている。これは免疫細胞の機能やそれに反応した生体の反応を調節する「サイトカイン」と呼ばれるタンパク質が、過剰に産生され、ウイルスに感染した細胞だけでなく、正常の細胞・臓器まで障害してしまう現象。

 このような現象も、遺伝子多型によって影響を受けていると考えられている。COVID-19の重症化に関与する日本人特有の遺伝子を特定できれば、重症化を予測できるだけでなく、ワクチンや治療薬の開発も加速できる。

 研究グループは、40以上の医療機関の協力を得て、日本人COVID-19患者の血液検体を600人分集積している。これらの検体を用いて、高解像度HLA解析、SNPアレイ解析、全ゲノムシーケンス解析、T細胞レパトア解析といった最新の技術を使い、日本人COVID-19患者の重症化に関わる遺伝子を探索する。9月を目処に研究成果をまとめる予定としている。
なぜ日本ではCOVID-19が少ないかを解明
日本をはじめとする東アジア諸国では、COVID-19による死亡率は欧米諸国に比べて大きく低い。その要因として、▼高いマスクの着用率と手指の衛生管理、▼社会的距離を保つ習慣、▼過去の類似ウイルス流行により免疫を潜在的に獲得している可能性、▼BCG接種、▼国民皆保険制度を基盤とする高い医療水準と医療システムなどが指摘されているが、決定的なことは分かっていない。

 COVID-19は無症状感染者が多く、感染者が症状を発症する前に他人に感染させ、いわば水面下で感染を拡大させるおそれがある。陽性患者が増え死者が出てから対策を講じても間に合わない。とくに感染しても症状が乏しい若者から、重症化リスクの高い高齢者に感染が移ることが懸念されている。なぜ日本で死亡率が低いのかを解明し、第2波、第3波を防ぐ対策が早急に求められている。

 プロジェクトでは、ICUの最前線で診療に当たる人々、大学病院で働く医療スタッフ、地域医療の最前線を担う開業医、免疫学者、感染症学者などがチームを作って、COVID-19の第2波、第3波で重症化を防ぎ、医療崩壊を防止することを目指している。研究成果と研究の進捗は定期的にサイト上で更新されていく。

大阪大学医学系研究科・医学部
アンジェス
東京大学医科学研究所 ウイルス感染分野
コロナ制圧タスクフォース
[Terahata]
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