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【新型コロナ】感染防止と社会活動の両立を目指す新たなコンセプト「社会的PCR検査」 唾液PCR検査キットの個人向け提供も開始
2021年04月12日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の、感染拡大防止と社会経済活動の両立を目指す、新たな検査コンセプトを慶應義塾大学が発表した。
他者への感染性がないことを証明するための、スクリーニング検査体制のモデルとして、「社会的PCR検査」を行うことを提唱している。
唾液を用いたプール方式のPCR検査で、医療機関以外でも実施でき、簡便かつ安全性の高い検査法だという。
新型コロナウイルス唾液PCR検査キットの個人向けの提供が開始され、薬局でもサービスが開始される予定。
他者への感染性がないことを証明するための、スクリーニング検査体制のモデルとして、「社会的PCR検査」を行うことを提唱している。
唾液を用いたプール方式のPCR検査で、医療機関以外でも実施でき、簡便かつ安全性の高い検査法だという。
新型コロナウイルス唾液PCR検査キットの個人向けの提供が開始され、薬局でもサービスが開始される予定。
感染拡大防止と社会経済活動の両立を目指す新たな検査コンセプト
慶應義塾大学医学部は、PCR検査のCt値からウイルス量を推量することで、他者への感染性を判断できる「社会的PCR検査」の考え方を提案している。
「医学的検査」は病気の治療を目的に自分のために受ける検査だが、「社会的検査」は感染性の判定を目的として他者のために実施する検査だとしている。
新型コロナウイルス感染症の診断・治療のために行われる「医学的PCR検査」は、COVID-19ウイルスの存在を証明するために、特異遺伝子が陽性となるまでのサイクル数である「Ct値」について、Ct=40を検査閾値に設定して実施されている。
Ct値は、少ない量のウイルス核酸を、検出可能な閾値に達するまで、PCRで何回増幅を行ったかを示す数値。たとえばCt=20は、約100万倍に増幅することではじめて検出可能なレベルに達するウイルス量であることを意味する。
一般的に数値が小さいほど元のウイルス量が多く、数値が大きいほどウイルス量は少ない。日本の行政検査でのPCR検査はCt=40未満を陽性としている。
一方、「社会的PCR検査」は、他者へ感染を拡大する可能性のあるウイルス量を保有しているかどうかを判断するために、Ct=35を検査閾値に設定している。プール方式を採用することで、安価に大量のPCR検査を実施できる。
プール方式では、複数人から採取した検体を混ぜて一括して検査する。混ぜた検体が陰性ならば全員を陰性と判断。陽性ならば改めて個別の検体を調べて陽性者を特定する。
結果が出るまでの時間を短縮でき、検査費用のコストも下げられるというメリットがある。PCR検査は自由診療の場合、1回1万~2万円程度の費用がかかる場合が多いが、プール方式であれば費用は4分の1程度で済む。
また、検査結果を陽性・陰性だけではなく、Ct値から推測されるウイルス量を勘案して、社会的活動の目安を示すことで、受検者の隔離や行動自粛の必要性を分かりやすく説明できる。
唾液PCR検査キットの個人向け提供 薬局でもサービス開始
研究は、慶應義塾大学医学部臨床研究推進センター生体試料研究支援部門の西原広史教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Keio Journal of Medicine」に掲載された。
なお同研究は、慶應義塾大学医学部が代表機関となり、楽天、日本調剤、フィリップス・ジャパン、LSIメディエンス、三菱スペース・ソフトウエアが研究協力企業として参画する体制で実施された。
3月31日より、楽天から新型コロナウイルス唾液PCR検査キットの個人向けの提供が開始され、4月12日より、日本調剤の「健康チェックステーション」併設薬局4店舗にて薬局スタッフが対面で問診や検査のフォローを行うサービスが開始する予定。
Ct値35を検査閾値とするコンセプトを提唱
慶應義塾大学医学部は、2020年4月よりCOVID-19対策プロジェクトである「慶應ドンネルプロジェクト」を実施しており、診断・検査・治療のさまざまな側面から新型コロナウイルス感染症の制御に向けて取り組んでいる。
研究グループは、同大学病院予防医療センターの人間ドック受診者に対するPCR検査を5,000件以上実施し、検査閾値の適正化を行い、とくに社会経済活動と感染拡大防止を両立させるための検査コンセプトの作成を行ってきた。
ウイルス量は「Ct値35」の場合には、一般的に感染を成立させうるウイルス量とされる100万粒子を含む唾液はコーヒーカップ1杯程度(125mL)であり、日常生活においてこれだけの唾液量が一度に相手に浴びせられることは非現実的であるため、他者への感染性は相当低いと考えられる。
「Ct値35以上の検体は実験系において感染性をもたない」という報告も複数ある。そこで研究グループは、「Ct値35」を検査閾値とするコンセプトを打ち出した。
社会的PCR検査では、Ct値35を閾値とする

出典:慶應義塾大学医学部臨床研究推進センター、2021年
社会的PCR検査は社会的活動の目安を示せる
このコンセプトにもとづき、研究グループは経済活動とCOVID-19の感染抑制の両立をはかるため、各個人を対象としたCOVID-19の他者への感染性の有無を判定することを目的に、「社会的PCR検査」のコンセプトを提唱している。
そして考案したのが、社会的PCR検査のコンセプトにのっとった検査方式「SocRtes」(ソクラテス、SOCialpcR TESt)だ。
この検査では、楽天がタカラバイオと共同開発した唾液の不活化システムを使った唾液の輸送システムとプール方式によるPCR検査、三菱スペース・ソフトウエア(MSS)が開発した検査データの一括管理による検査判定・報告システムが採用されている。
検査を希望する個人がインターネットで検査を申込み、届いたキットを使って唾液を発送することで、LSIメディエンスで10検体プール方式でのPCR検査が行われ、2~3日程度で検査結果がインターネット上で閲覧できるシステムを構築した。
また、インターネットでの申し込みが不安な人のために、日本調剤の「健康チェックステーション」併設薬局4店舗で、薬局スタッフが対面で問診や検査のフォローを行うサービスも、4月12日から開始する予定だ。
なお、プール方式でのPCR検査の適正化では、フィリップス・ジャパンがLSIメディエンスと提携して行った無症状者に対するPCR検査のデータ提供を受けて、事前検証が行われている。
なお研究グループは、「今回の提案は、あくまで自費診療などにより行われる社会的検査に対する考え方であり、行政検査として行われるPCR検査とは目的、方法論が異なっており、行政検査を否定するものではありません。また、関係する企業のみが実施することを想定したものではなく、他の事業者がこのモデルを利用して検査事業を行うことを妨げるものではありません」としている。
新型コロナに対する唾液を用いた社会的検査体制を構築する研究の流れ

出典:慶應義塾大学医学部臨床研究推進センター、2021年
慶應義塾大学病院臨床研究推進センターRT-PCR Screening Tests for SARS-CoV-2 with Saliva Samples in Asymptomatic People: Strategy to Maintain Social and Economic Activities while Reducing the Risk of Spreading the Virus(The Keio Journal of Medicine 2021年3月19日)
慶應ドンネルプロジェクト-COVID-19の研究を加速-
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