ニュース

睡眠時間の理想と現実の大きな差でうつ病リスク〜「令和5年版 過労死等防止対策白書」

 厚生労働省はこのほど令和5(2023)年版「過労死等防止対策白書」を公表した。

 睡眠時間が理想より不足していると、うつ病や不安障害のリスクが高まり、幸福度も低下することなどを報告。
 改めて過労死等をゼロにし、心身ともに健康で働き続けられる社会づくりが急がれている。

勤務問題を原因の1つとした自殺者は前年から586人増加

「過労死等防止対策白書」は、過労死等防止対策推進法の第6条に基づき、国会に毎年報告を行う年次報告書。今回の白書は8回目となる。

 報告書によると令和4年の労働者(パートタイム含む)1人あたりの年間総実労働時間は、1633時間。過去30年間の推移で最も多かった平成8年の1919時間以降は減少傾向が続いている。一方で、パートタイム労働者が全体の31.6%を占め、年々増加していることが年間総実労働時間の中長期的な減少に寄与している可能性もある。

 年間総実労働時間1633時間の内訳は、所定内労働時間が1512時間、所定外労働時間(残業や休日出勤など)は121時間。所定内労働時間は長期的に減少を続けているが、所定外労働時間は令和2年に110時間と大きく減少してから増加に転じており、所定外労働時間の削減が引き続き課題になっている。

出典:厚生労働省「令和5年版過労死等防止対策白書」

 また、令和4年の自殺者数は21881人で、前年より874人増加した。このうち勤務問題を原因・動機の一つとした自殺者は2968人だった。有職者の自殺者数は8576人で、前年より586人の増加。

 自殺者数の原因・動機になった「勤務問題」について詳細を見ると、「職場の人間関係」(26.5%)、「仕事疲れ」(24.4%)、「職場環境の変化」(19.8%)、「仕事の失敗」(11.8%)の順に多かった。「職場の人間関係」(788人)のうち219人は「上司とのトラブル」、また「仕事疲れ」(724人)のうち144人は「長時間労働」が原因だった。

出典:厚生労働省「令和5年版過労死等防止対策白書」

 勤務問題を原因・動機の一つとする自殺者を年齢層別に見ると、最も多いのは「40〜49歳」で27.5%。次いで「50〜59歳」(25.1%)、「30〜39歳」(18.2%)と続く。

睡眠時間確保も課題に

 今回の調査では、「理想の睡眠時間」と「実際の睡眠時間」の差が大きくなるにつれ、うつ病などになるリスクが高まることが明らかになった。

 理想の睡眠時間は「7〜8時間未満」が45.4%で最も多かったものの、実際の睡眠時間は「5〜6時間未満」が35.5%で最も多かった。
 また1週間あたりの実労働時間別に、理想の睡眠時間と実際の睡眠時間の乖離(かいり)を見ると、労働時間が長くなるにつれて、理想の睡眠時間が取れていない傾向が見られた。

出典:厚生労働省「令和5年版過労死等防止対策白書」
 睡眠時間とうつ病・不安障害などの関係性を調べた調査では、「理想の睡眠時間以上睡眠がとれている」とした人の68.4%は「うつ傾向・不安なし」だったが、理想の睡眠時間と実際の睡眠時間の乖離が大きくなるにつれてその割合は減少。
 「理想の睡眠時間より5時間不足」と答えた人については「うつ傾向・不安なし」の人は33.3%にとどまり、「重度のうつ病・不安障害の疑い」がある人が38.5%と高い割合を占めた。

出典:厚生労働省「令和5年版過労死等防止対策白書」

 同様に、主観的な幸福感も理想の睡眠時間と実際の睡眠時間の乖離が大きくなるにつれて低くなる傾向が見られた。そのため厚生労働省は「睡眠の不足感が大きいと疲労の持ちこし頻度が高くなり、うつ傾向・不安を悪化させ、主観的幸福感も低くなる傾向がある」と指摘している。

 白書ではほかにも、芸術・芸能分野における働き方の実態、メディア業界や教職員の労災事案の分析結果等について報告。企業や自治体における長時間労働を削減する働き方改革事例やメンタルヘルス対策、産業医の視点による過重労働防止の課題など、過労死等防止対策のための取り組み事例もコラムとして紹介している。

11月は「過労死等防止啓発月間」

 厚生労働省は11月を「過労死等防止啓発月間」と定め、「過労死等防止対策推進シンポジウム」や「過重労働解消キャンペーン」などを実施。シンポジウムは47都道府県48会場において無料で開催する(要事前申し込み)。

 キャンペーンは長時間労働の是正や賃金不払い残業の解消に向けた重点的な監督指導や全国一斉電話無料相談といった取り組みを進める予定。厚生労働省では「過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会」の実現に向け、引き続き対策に取り組んでいく。

「令和5年版 過労死等防止対策白書」(本文)
11月は「過労死等防止啓発月間」です
過労死等防止対策シンポジウム
過重労働解消キャンペーン(厚生労働省)/a>
[yoshioka]
side_メルマガバナー

「産業保健」に関するニュース

2024年04月30日
タバコは歯を失う原因に 認知症リスクも上昇 禁煙すれば歯を守れて認知症も予防できる可能性が
2024年04月25日
厚労省「地域・職域連携ポータルサイト」を開設
人生100年時代を迎え、保健事業の継続性は不可欠
2024年04月23日
生鮮食料品店が近くにある高齢者は介護費用が低くなる 自然に健康になれる環境づくりが大切
2024年04月22日
運動が心血管疾患リスクを23%低下 ストレス耐性も高められる 毎日11分間のウォーキングでも効果が
2024年04月22日
職場や家庭で怒りを爆発させても得はない 怒りを効果的に抑える2つの方法 「アンガーマネジメント」のすすめ
2024年04月22日
【更年期障害の最新情報】更年期は健康な老化の入り口 必要な治療を受けられることが望ましい
2024年04月22日
【肺がん】進行した人は「健診やがん検診を受けていれば良かった」と後悔 早期発見できた人は生存率が高い
2024年04月16日
塩分のとりすぎが高血圧や肥満の原因に 代替塩を使うと高血圧リスクは40%減少 日本人の減塩は優先課題
2024年04月16日
座ったままの時間が長いと肥満や死亡のリスクが上昇 ウォーキングなどの運動は夕方に行うと効果的
2024年04月15日
血圧が少し高いだけで脳・心血管疾患のリスクは2倍に上昇 日本の労働者8万人超を調査 早い段階の保健指導が必要
アルコールと保健指導
無料 メールマガジン 保健指導の最新情報を毎週配信
(木曜日・登録者11,000名)
登録者の内訳(職種)
  • 産業医 3%
  • 保健師 46%
  • 看護師 10%
  • 管理栄養士・栄養士 19%
  • その他 22%
登録はこちら

ページのトップへ戻る トップページへ ▶