睡眠時間の理想と現実の大きな差でうつ病リスク〜「令和5年版 過労死等防止対策白書」

睡眠時間が理想より不足していると、うつ病や不安障害のリスクが高まり、幸福度も低下することなどを報告。 改めて過労死等をゼロにし、心身ともに健康で働き続けられる社会づくりが急がれている。
「過労死等防止対策白書」は、過労死等防止対策推進法の第6条に基づき、国会に毎年報告を行う年次報告書。今回の白書は8回目となる。
報告書によると令和4年の労働者(パートタイム含む)1人あたりの年間総実労働時間は、1633時間。過去30年間の推移で最も多かった平成8年の1919時間以降は減少傾向が続いている。一方で、パートタイム労働者が全体の31.6%を占め、年々増加していることが年間総実労働時間の中長期的な減少に寄与している可能性もある。
年間総実労働時間1633時間の内訳は、所定内労働時間が1512時間、所定外労働時間(残業や休日出勤など)は121時間。所定内労働時間は長期的に減少を続けているが、所定外労働時間は令和2年に110時間と大きく減少してから増加に転じており、所定外労働時間の削減が引き続き課題になっている。
自殺者数の原因・動機になった「勤務問題」について詳細を見ると、「職場の人間関係」(26.5%)、「仕事疲れ」(24.4%)、「職場環境の変化」(19.8%)、「仕事の失敗」(11.8%)の順に多かった。「職場の人間関係」(788人)のうち219人は「上司とのトラブル」、また「仕事疲れ」(724人)のうち144人は「長時間労働」が原因だった。
勤務問題を原因・動機の一つとする自殺者を年齢層別に見ると、最も多いのは「40〜49歳」で27.5%。次いで「50〜59歳」(25.1%)、「30〜39歳」(18.2%)と続く。
今回の調査では、「理想の睡眠時間」と「実際の睡眠時間」の差が大きくなるにつれ、うつ病などになるリスクが高まることが明らかになった。
理想の睡眠時間は「7〜8時間未満」が45.4%で最も多かったものの、実際の睡眠時間は「5〜6時間未満」が35.5%で最も多かった。 また1週間あたりの実労働時間別に、理想の睡眠時間と実際の睡眠時間の乖離(かいり)を見ると、労働時間が長くなるにつれて、理想の睡眠時間が取れていない傾向が見られた。
白書ではほかにも、芸術・芸能分野における働き方の実態、メディア業界や教職員の労災事案の分析結果等について報告。企業や自治体における長時間労働を削減する働き方改革事例やメンタルヘルス対策、産業医の視点による過重労働防止の課題など、過労死等防止対策のための取り組み事例もコラムとして紹介している。
厚生労働省は11月を「過労死等防止啓発月間」と定め、「過労死等防止対策推進シンポジウム」や「過重労働解消キャンペーン」などを実施。シンポジウムは47都道府県48会場において無料で開催する(要事前申し込み)。
キャンペーンは長時間労働の是正や賃金不払い残業の解消に向けた重点的な監督指導や全国一斉電話無料相談といった取り組みを進める予定。厚生労働省では「過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会」の実現に向け、引き続き対策に取り組んでいく。
「令和5年版 過労死等防止対策白書」(本文) 11月は「過労死等防止啓発月間」です 過労死等防止対策シンポジウム 過重労働解消キャンペーン(厚生労働省)/a>

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