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高齢者の4割近くに肩・腰・背中など運動器の痛み 10~14%は身体の広範囲に疼痛 慢性の痛みは女性に多く地域差も大きい

 肩・腰・背中・足など、体を動かす筋肉や骨に関係する長引く痛みである「慢性運動器疼痛」が、高齢者の4割近くにみられることが、日本の高齢者1万2,883人を対象とした調査で明らかになった。

 身体の広範囲に慢性的な痛みがある割合も10.3~13.9%と高く、また、とくに女性で運動器の慢性的な痛みが多く、85歳以上の高齢になるほど保有率が上昇することも示された。

 運動器の痛みや身体の広範囲の痛みは、それらの保有率の高さからみて、高齢者に対する医療・福祉の対策を考えるうえで新たな健康問題であることが示された。

高齢者の4割近くに「慢性運動器疼痛」 10~14%は身体の広範囲に疼痛

 運動器とは、身体運動に関わる骨・筋肉・関節などの総称。肩・腰・背中・足など、体を動かす筋肉や骨に関係する長引く痛みである「慢性運動器疼痛」は、高齢者の介護予防に大きく関連し、生活の質(QOL)にも影響する重要な健康問題となっている。

 しかし、これまで大規模な調査が十分に行われておらず、日本全国の地域に暮らす高齢者がどのくらいの割合で慢性運動器疼痛を抱えているかなど、基本的な情報が分かっていなかった。

 そこで順天堂大学の研究グループは、慢性運動器疼痛や、より精神心理面との関連が大きいとされる「身体の広範囲にわたる慢性痛(慢性広範囲疼痛)」をもつ、日本の自立高齢者の割合や、その市町村の格差について調査した。

 研究グループは、日本の58市町村に居住している65歳以上の高齢者1万2,883人を対象に、アンケート調査を実施した。

 その結果、自立高齢者の39%に慢性運動器疼痛があり、女性で保有率が高く、市町村により28%から53%と、大きな地域差があることが分かった。

 慢性広範囲疼痛の保有率も10.3~13.9%と高く、今回の分析対象に含めていない入院中や施設入所中の高齢者、介護認定を受けている高齢者、日常生活動作に介助が必要な高齢者では、さらに保有率が高いだろう予測している。

 これらに、筋肉やバランス感覚を鍛えるといった身体的なアプローチのみでは対策するのは難しいと考えられる。

 「慢性運動器疼痛や慢性広範囲疼痛は、これら保有率の高さだけから判断しても、高齢者に対する医療・福祉の対策を考えるうえで重要な健康問題であることが示唆されます。また、これらの慢性の痛みはいずれも市町村間で保有率にばらつきがみられました。このばらつきの原因については、今後さらなる研究が必要です」と、研究グループでは述べている。

女性の保有率が高く、地域によってばらつきが大きい

 研究は、順天堂大学大学院 医学研究科 疼痛制御学准教授の山田恵子氏らによるもの。研究成果は、「BMC Musculoskeletal Disorders」に掲載された。

 研究グループは今回、日本の58市町村に居住している65歳以上の高齢者1万2,883人を対象に、アンケート調査を実施した。

 対象となったのは、日常生活が自立している地域高齢者で、慢性運動器疼痛については、過去1年間に筋骨格系(首、肩、ひじ、手首、手指、背、腰、太もも、ひざ、足首、足指のいずれかの部位)に3ヵ月以上続く痛みがある場合とし、慢性広範囲疼痛については、「それらの筋骨格系の部位の3ヵ所以上に慢性痛がある(定義1)」、「脊椎周辺(首、背、腰)とそれ以外の部位の両方に慢性痛がある(定義2)」という、2種類の定義を設定したうえで調査した。

 その結果、慢性運動器疼痛の保有率は全体の39%で、女性 41.8%、男性 36.3%と女性の保有率が高く、85歳以上で42.3%と年齢が高くなるほど保有率が上昇する傾向があることが分かった。

 また、慢性運動器疼痛の保有率は、市町村によって28.2~53.3%と大きなばらつきがあった。

 さらに、慢性広範囲疼痛については、「定義1」による保有率は全体の10.3%で(女性 11.9%、男性 8.7%)、市町村によって6.2~19.8%のばらつきがあり、「定義2」による保有率は全体の13.9%(女性 15.6%、男性 12.4%)で、市町村別によって9.4~31.0%のばらつきがあることが分かった。

慢性運動器疼痛の保有率は市町村によって28.2~53.3%と大きなばらつきがある
出典:順天堂大学、2023年

慢性疼痛は高齢者の重要な健康問題

 慢性広範囲疼痛についても、女性の保有率が高く、高齢になるほど保有率が上昇し、市町村間でばらつきがあることが示された。

 疼痛のある部位については、「肩」(14.6%)、「腰」(13.6%)、「ひざ」(11.8%)が多かった。

 なお、今回の調査では、痛みの治療やリハビリのために医療機関に通院しているかどうか、痛みについて何らかのケアを受けているかどうかについては調査していない。

 「地域の自立高齢者における慢性運動器疼痛の保有率は全体の39.0%、慢性広範囲疼痛の保有率は全体の10.3~13.9%と高い割合を占めました。また、今回の分析対象に含めていない、入院中や施設入所中の方、介護認定を受けている方、日常生活動作に介助が必要な方ではさらに高い保有率であると考えられます」と、研究者は述べている。

 「慢性運動器疼痛や慢性広範囲疼痛は、これら保有率の高さだけから判断しても、高齢者に対する医療・福祉の対策を考えるうえで重要な健康問題であることが示唆されます。また、これらの慢性の痛みはいずれも市町村間で保有率にばらつきがみられました。このばらつきの原因については、今後さらなる研究が必要です」としている。

順天堂大学大学院 医学研究科 疼痛制御学
JAGES(日本老年学的評価研究)プロジェクト
Prevalence and municipal variation in chronic musculoskeletal pain among independent older people: data from the Japan Gerontological Evaluation Study (JAGES) (BMC Musculoskelet Disord 2022年8月5日)
[Terahata]
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