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子供の力で高齢者の孤立を防ぐ「ほっこりふれあい食事プロジェクト」
2017年02月02日

高齢者が地域の保育所を訪問し、園児や保育者と交流し、地域社会とのつながりを築く。日本栄養士会が2014年に岩手県、宮城県、福島県でスタートした「ほっこりふれあい食事プロジェクト」が全国に広がろうとしている。
子どもとの交流から生まれる社会参加と健康増進
高齢者の「孤食」「低栄養」「生活不活発病(廃用症候群)」「認知症」などの増加が問題になっており、東日本大震災などの被災地の仮設住宅では、とりわけこれらのリスクは深刻だ。2012年の食育白書で、70歳以上の女性が1日のすべての食事を1人で食べる頻度は約2割が「ほとんど毎日」であることが示された。
家族と離れて暮らす高齢者が多く、孤食による調理意欲の低下、それに伴う食事摂取量の低下、栄養バランスの乱れ、室内に引きこもることによる活動意欲や活動量の低下などが懸念されている。さらに、新たなコミュニティに加わることが難しく、人との触れ合いが減り、判断力や認知力の低下も見受けられる。
これらは高齢者にとって要介護状態につながる問題で、被災地だけでなく全国でも大きな課題になっている。高齢者が生き生きと地域で生活し、栄養バランスの良い食事を楽しく食べ、社会参加、健康増進をはかれるようにする対策が求められている。
そこで、日本栄養士会は、高齢者が地域の保育所を訪問し、園児や保育者などと一緒に食事や会話を楽しみ、地域社会とのつながりを築く「ほっこり食事プロジェクト」(保育所を通じて高齢者が利用する食事プロジェクト)を策定した。
仮設住宅の高齢者に声掛けし、保育所に迎え、園児と一緒に伝承遊びや、餅つき大会、芋煮会などのイベントを手伝ってもらい会食する。保育所には、調理施設があり、管理栄養士・栄養士、調理師の専門職も配置されている。そして、避難先での独居生活や高齢者だけの世帯ではなかなか接することがない子どもたちの笑顔や元気に走り回る姿も見ることができる。
高齢者が外出し笑顔になれる食のイベント
「高齢者の方が外出を楽しみにしてくれるような、笑顔になれるような食のイベントは何か? 地域で栄養のバランスが良い食事を楽しめる場所はどこか? その"食を通じた楽しさ"を追求して考えたときに思い当たった場所が、保育所だった」と、日本栄養士会の下浦佳之常務理事は話す。
福島県内でJDA-DAT(日本栄養士会災害支援チーム)のメンバーとして震災直後から活動してきた福島県栄養士会の三森美智子副会長は、原発事故の影響から避難生活を送っている浪江町、双葉町、富岡町の住民と地元の住民とをつなげるために、この「ほっこりふれあい食事プロジェクト」をコーディネートし、継続してきた。
三森副会長は、自治体やNPO団体、福島県栄養士会の賛助会員など、多くの組織や団体と連携し、それぞれの役割を明確にし、縦割りを越えて地域における協働体制を構築。
「ほっこり・ふれあい食事プロジェクト」は2014年度には、岩手県、宮城県、福島県の3県の保育所など4ヵ所で計9回実施し、延べ105名の高齢者が参加した。さらに、2015年度には活動が広まり、同3県の12ヵ所で計30回実施、延べ393名が参加した。
2016年には、白河市立わかば保育園で市内に住む浪江町、双葉町、富岡町の被災高齢者とともに「りんご狩り」を実施した。子どもたちとともにバスでりんご農園に出かけて収穫し、保育園に戻ってから給食とおやつを食べ、りんごにまつわる話を聞き、子どもたちの歌の披露もあったという。
アンケートでは、参加した高齢者16名全員が「とても楽しかった。また参加したい」と回答しており、「子どもの楽しい声を久しぶりに聞いて、嬉しくて涙が出てきました。お昼もおいしく、お腹がいっぱいになりました」などの感想が寄せられた。
プロジェクトを拡充し全国に展開
「こうした企画をすることで、これまで挨拶をすることもなくすれ違っていたかもしれない高齢者と親子が、町のなかで挨拶をしたり立ち話をしたりする可能性が生まれます。それにより、被災した高齢者が避難してきた新しい土地でもコミュニティを感じることができ、疎外感や引きこもりを防ぐことになるのです」と、三森副会長は言う。
避難住民を対象に始まった事業だが、孤食や人との触れ合いの不足は高齢者には共通した健康課題である。今後は、被災地域の仮設住宅のみならず、全国の保育所や栄養ケア・ ステーションを拠点として、東北発信の全国に向けた事業拡大をはかるという。
さらに高齢者に限らず、妊産婦や子育てママを対象としたプロジェクトの拡充により、全てのライフステージにおける食育などへの取組を支え、社会環境を整えていきたいとしている。
公益社団法人 日本栄養士会平成27年度「新しい東北」先導モデル事業報告書 保育所を活用した生活不発病防止給食受け取りシステムの構築(日本栄養士会)
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