ニュース

お酒を飲むと赤くなる人は骨粗鬆症による大腿骨骨折を起こしやすい

 お酒を飲んだ際に赤くなりやすい体質の遺伝子多型をもつ人は、その多型をもっていない人に比べて、骨粗鬆症による大腿骨近位部骨折を2.48倍起こしやすいことが明らかになった。これを予防するために、ビタミンEの摂取が効果的である可能性があるという。
大腿骨近位部骨折はもっとも重篤な骨折 寝たきりの原因に
 大腿骨近位部骨折は、体のもっとも大きい骨である大腿骨が股関節部の近くの骨折で、骨折のなかでももっとも重篤なものとされる。寝たきりや要介護の要因になるだけでなく、骨折発生後1年で亡くなる人がいるなど、死亡率も増加させる。

 今日、多くの骨粗鬆症の治療薬が臨床応用されているにもかかわらず、大腿骨近位部骨折の発生数は増加の一途をたどっている。2014年には日本で年間に19万件もの大腿骨近位部骨折が発生しており、今後さらに増加することが予想されている。
アセトアルデヒドがたまると骨芽細胞の機能不全が起こる
 今回の研究では、お酒を飲むと赤くなりやすい遺伝子をもつ人は、ふだんの飲酒量に関係なく骨粗鬆症による大腿骨近位部骨折を起こしやすくなることを、慶應義塾大学医学部の研究チームが明らかにした。

 お酒を飲んだ際に赤くなりやすい人は、アルコールを飲んだあとのアルコール代謝の過程で発生するアセトアルデヒドの分解に機能する「ALDH2」という酵素タンパク質が、遺伝子的に活性が弱いか欠けている。この遺伝は、日本人など東アジアの人種に多いとされている。

 「ALDH2」はアセトアルデヒドの分解に重要な役割を担っており、その機能喪失により、アセトアルデヒドが蓄積されると骨を生成する骨芽細胞の機能不全が生じる。

 さらに研究チームは、機能不全をおこした骨芽細胞にビタミンEを添加することで、機能不全を回避できることを試験管培養で確かめた。

 もって生まれた遺伝子多型は変えようがないが、ビタミンEの摂取で遺伝子多型の影響が減少し、骨折予防につながる効果が期待できるという。

 研究は、慶應義塾大学医学部整形外科学教室の宮本健史氏(先進運動器疾患治療学寄附講 座特任准教授)らによるもの。

骨折のリスクが2.48倍に上昇
 研究では、大腿骨近位部骨折を起こした92人の患者を大腿骨近位部骨折群(骨折群)、大腿骨近位部骨折を起こしておらず骨粗鬆症の診断基準も満たさない48人を正常群として、ゲノムDNAを抽出。

 アルコール代謝の過程でアセトアルデヒド分解に重要な「ALDH2」遺伝子多型のうち、お酒をのむと赤くなる体質の原因となる遺伝子多型に着目し、その保有率を骨折群と正常群間で比較した。

 その結果、骨折群では正常群に比べてその遺伝子多型の保有率が高く、その保有により骨折のリスクが2.48倍高くなることが明らかとなった。

 「ALDH2」の機能不全型遺伝子多型では、アセトアルデヒドの血中濃度が上昇することが報告されている。しかし、アセトアルデヒドにより骨芽細胞の機能障害が生じること、そして、アセトアルデヒドによる骨芽細胞の機能障害はビタミンEにより回避できることが試験管内の培養で示された。
お酒を飲むと赤くなる人は骨折しやすい 高齢者の骨折を防ぐきっかけに
 今回の調査では、お酒を飲むと赤くなると答えた人が「ALDH2」の遺伝子多型を保有する検査の感度と特異度はそれぞれ80.0%と92.3%だった。感度と特異度が高いということは、お酒を飲むと赤くなることとALDH2遺伝子多型を保有することとが一致する確率が高いこと、つまりお酒を飲むと赤くなる人は骨折しやすい体質である可能性が高いことを示している。

 このことから、お酒で赤くなりやすいことが、遺伝子検査をしなくても骨折のリスク遺伝子を保有していることを知るための手がかりになると考えられる。また、リスク遺伝子多型を保有していても、そのリスクをビタミンEの摂取で減らせる可能性が示された。

 お酒を飲むと赤くなることが、本人あるいは家族など周りの人が骨折のリスクに気づくための分かりやすい指標となり、高齢者の骨折を防ぐために取り組むためのきっかけになるという。

慶應義塾大学医学部整形外科学教室
[Terahata]
side_メルマガバナー

「アルコール」に関するニュース

2025年08月05日
【インタビュー】2週間のデトックスで生産性が変わる?
製薬の『アルコールチャレンジ』に学ぶ健康経営
2025年07月18日
日本人労働者の3人に1人が仕事に影響する健康問題を経験 腰痛やメンタルヘルスなどが要因 働きながら生産性低下を防ぐ対策が必要
2025年07月14日
適度なアルコール摂取は健康的? 大量飲酒の習慣は悪影響をもたらす お酒との良い関係
2025年07月07日
ノンアルコール飲料の活用が ''減酒支援ツール'' に?
特定保健指導・健康経営での活用法とは【産衛学会レポート公開中】
2025年07月07日
日本の働く人のメンタルヘルス不調による経済的な損失は年間7.6兆円に 企業や行政による働く人への健康支援が必要
2025年07月07日
自分の認知症の発症をイメージして不安に 認知症があってもなくてもともに生きられる共生社会が求められる
2025年07月01日
生活改善により糖尿病予備群から脱出 就労世代の1~2割が予備群 未病の段階から取り組むことが大切 日本の企業で働く1万人超を調査
2025年06月23日
昼寝が高血圧・心臓病・脳卒中のリスクを減少 ただし長時間の昼寝は逆効果 規則的な睡眠スケジュールが大切
2025年06月23日
「睡眠不足」と「不健康な食事」が職場のメンタルヘルスに影響 日本の企業のワーク・ライフ・バランス向上のための取り組み
2025年06月16日
【アルコール健康障害の最新情報】多量飲酒は認知症リスクを高める どんな状況で飲みすぎている? どうすれば飲みすぎを防げる?
アルコールと保健指導
無料 メールマガジン 保健指導の最新情報を毎週配信
(木曜日・登録者11,800名)
登録者の内訳(職種)
  • 医 師 3%
  • 保健師 47%
  • 看護師 11%
  • 管理栄養士・栄養士 19%
  • その他 20%
登録はこちら

ページのトップへ戻る トップページへ ▶