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お酒を飲むと赤くなる人は骨粗鬆症による大腿骨骨折を起こしやすい
2017年03月28日

お酒を飲んだ際に赤くなりやすい体質の遺伝子多型をもつ人は、その多型をもっていない人に比べて、骨粗鬆症による大腿骨近位部骨折を2.48倍起こしやすいことが明らかになった。これを予防するために、ビタミンEの摂取が効果的である可能性があるという。
大腿骨近位部骨折はもっとも重篤な骨折 寝たきりの原因に
大腿骨近位部骨折は、体のもっとも大きい骨である大腿骨が股関節部の近くの骨折で、骨折のなかでももっとも重篤なものとされる。寝たきりや要介護の要因になるだけでなく、骨折発生後1年で亡くなる人がいるなど、死亡率も増加させる。
今日、多くの骨粗鬆症の治療薬が臨床応用されているにもかかわらず、大腿骨近位部骨折の発生数は増加の一途をたどっている。2014年には日本で年間に19万件もの大腿骨近位部骨折が発生しており、今後さらに増加することが予想されている。
アセトアルデヒドがたまると骨芽細胞の機能不全が起こる
今回の研究では、お酒を飲むと赤くなりやすい遺伝子をもつ人は、ふだんの飲酒量に関係なく骨粗鬆症による大腿骨近位部骨折を起こしやすくなることを、慶應義塾大学医学部の研究チームが明らかにした。
お酒を飲んだ際に赤くなりやすい人は、アルコールを飲んだあとのアルコール代謝の過程で発生するアセトアルデヒドの分解に機能する「ALDH2」という酵素タンパク質が、遺伝子的に活性が弱いか欠けている。この遺伝は、日本人など東アジアの人種に多いとされている。
「ALDH2」はアセトアルデヒドの分解に重要な役割を担っており、その機能喪失により、アセトアルデヒドが蓄積されると骨を生成する骨芽細胞の機能不全が生じる。
さらに研究チームは、機能不全をおこした骨芽細胞にビタミンEを添加することで、機能不全を回避できることを試験管培養で確かめた。
もって生まれた遺伝子多型は変えようがないが、ビタミンEの摂取で遺伝子多型の影響が減少し、骨折予防につながる効果が期待できるという。
研究は、慶應義塾大学医学部整形外科学教室の宮本健史氏(先進運動器疾患治療学寄附講 座特任准教授)らによるもの。
骨折のリスクが2.48倍に上昇
研究では、大腿骨近位部骨折を起こした92人の患者を大腿骨近位部骨折群(骨折群)、大腿骨近位部骨折を起こしておらず骨粗鬆症の診断基準も満たさない48人を正常群として、ゲノムDNAを抽出。
アルコール代謝の過程でアセトアルデヒド分解に重要な「ALDH2」遺伝子多型のうち、お酒をのむと赤くなる体質の原因となる遺伝子多型に着目し、その保有率を骨折群と正常群間で比較した。
その結果、骨折群では正常群に比べてその遺伝子多型の保有率が高く、その保有により骨折のリスクが2.48倍高くなることが明らかとなった。
「ALDH2」の機能不全型遺伝子多型では、アセトアルデヒドの血中濃度が上昇することが報告されている。しかし、アセトアルデヒドにより骨芽細胞の機能障害が生じること、そして、アセトアルデヒドによる骨芽細胞の機能障害はビタミンEにより回避できることが試験管内の培養で示された。
お酒を飲むと赤くなる人は骨折しやすい 高齢者の骨折を防ぐきっかけに
今回の調査では、お酒を飲むと赤くなると答えた人が「ALDH2」の遺伝子多型を保有する検査の感度と特異度はそれぞれ80.0%と92.3%だった。感度と特異度が高いということは、お酒を飲むと赤くなることとALDH2遺伝子多型を保有することとが一致する確率が高いこと、つまりお酒を飲むと赤くなる人は骨折しやすい体質である可能性が高いことを示している。
このことから、お酒で赤くなりやすいことが、遺伝子検査をしなくても骨折のリスク遺伝子を保有していることを知るための手がかりになると考えられる。また、リスク遺伝子多型を保有していても、そのリスクをビタミンEの摂取で減らせる可能性が示された。
お酒を飲むと赤くなることが、本人あるいは家族など周りの人が骨折のリスクに気づくための分かりやすい指標となり、高齢者の骨折を防ぐために取り組むためのきっかけになるという。
慶應義塾大学医学部整形外科学教室
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