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「マインドフルネス」の心理的傾向のある人は年収が低くても幸福

 一般に収入の高い人の幸福感が高い傾向にあるが、「マインドフルネス」という心理的な傾向の高い人は、収入の多い少ないに関わらず、高い幸福感を感じていることが大規模な調査で明らかになった。
 研究は、幸福にいたる多様な道筋があることを示唆しており、ワークライフバランスや過労の問題など、働く人の多くが直面する問題へのより良い解決の糸口になる可能性がある。
「マインドフルネス」が幸福感に影響?
 経済力と幸せの関連について、「収入の多い人の方が幸福感が高い」という傾向があることが多くの研究で示されているが、その関連の強さをしめす相関係数は0.10から0.20程度であまり強くない。

 広島大学の研究グループは、収入と幸福感の関連があまり強くないことに注目し、収入が幸福感に影響する人と、しない人(収入が多くても少なくても幸せを感じられる人)がいるのではないかと考え調査を行った。

 その違いは、「マインドフルネス」と呼ばれる心理的な傾向の違いによるものだという。

 マインドフルネスの高い人は、その瞬間に起きていることに丁寧に注意を向けている。たとえば、食事の時もスマホを見ながらかきこむのではなく、じっくり歯ごたえ、味、香りを味わう。

 また、自分よりも収入の多い人や社会的に成功している人と比べて、ついひけめを感じたりすることは誰にでもあるが、マインドフルネスの高い人は、一時の思いに振り回されずに、自分は自分、他人は他人として各々かけがえのない大切な存在であると感じて平穏な気持ちを保つことができるという。

 研究は、広島大学大学院総合科学研究科の杉浦義典氏や日本学術振興会の杉浦知子氏らの研究グループによるもので、医学誌「Frontiers in Psychology」に発表された。

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「マインドフルネス」の2種類の特徴
 研究グループは今回の研究で、20~60歳の社会人734人を対象に、年収、幸福感、マインドフルネスについての質問を含んだウェブ調査を行い、年収についての回答が得られた734名を対象に分析を実施。

 マインドフルネス傾向の高い人と低い人の違いを分析したところ、低い人では「収入の多い人の方が幸福感が高い」という従来通りの結果であったのに対し、高い人では「収入と関係なく幸福感が高い」ことが判明した。

 マインドフルネスはいくつかの側面があるが、今回は2種類の特徴があることが分かった。ひとつめは「自分の体験を批判的に見ないこと」(図1)、もうひとつは「自分の体験を言葉で表現するのが得意なこと」(図2)だった。

 収入と幸福感の関連の強さを相関係数であらわすと、図1は0.22、図2は0.12になり、これまでの研究で報告された数値とほぼ同程度になった。

 マインドフルネスの高い人を示す赤い点線はほぼ水平で、マインドフルネスの高い人を示す黒い直線よりも高く、幸福感が強いことが示された。

人は望まなくてもさまざまなことが頭に浮かぶ
 人は起きている時間の約半分は目の前のことと関係ないことを考えているというバーバード大学による研究結果がある。人は望まなくてもさまざまなことが勝手に頭に浮かぶものだ。

 たとえば「お金が無いと良い人生は送れない」という考えが浮かんだとする。そのときに、その考えを真に受けてしまうと「私の年収では幸せになれない」と落ち込んでしまい、幸福は損なわれる。

 しかし、同じ考えが浮かんでも、それは単なる雑音のようなもので、真に受ける必要も否定する必要もないと思えれば、幸福は損なわれない。

 また、自分の体験を批判的にみない人は、他人との優劣にこだわらずに自分を大切にできることも分かっている。

 「自分よりも収入の多い人にひけめを感じたりしなれば、人は安定した気持ちで過ごすことができて、幸福感も高くなるでしょう」と、研究グループは述べている。

 さらに、自分の体験を言葉で表現するのが得意な人は、一瞬一瞬の体験を丁寧に見つめている。例えばお菓子を食べる時、他のことを考えながら口にほうり込むのと、じっくりかみしめ味わうのとでは、感じ取ることのできるおいしさや充実感は違うと考えられる。
幸福感を向上させるウェルビーイング療法
 「同じことをしていても、自分の体験を丁寧に見つめたほうが、そこから得られる幸せが多いのです。日々の生活の中で幸せを感じた出来事を記録することで、幸福感を向上させるウェルビーイング療法という方法もあります」と、研究グループは指摘する。

 嫌な気分は言葉で表現すると弱くなることは、アメリカ国立精神衛生研究所の研究でも示されている。たとえば、収入の低いことでストレスを感じている人がいたとする。しかしその嫌な気分を、うまく言葉に表現できればさほど苦しくならず、幸福も損なわれない。

 収入とも関連の深い生活スタイルとして、倹約やシンプルライフといったものがある。そのような生活のしかたと幸福感の関連や、さらにそこにどのようにマインドフルネスが関連するのかを検討することで、幸せになるためのコツを発見できる可能性がある。

 「マインドフルネスは、自分の呼吸にゆっくりと注意を向ける、といったトレーニングによって高めることも可能です。ライフスタイルとマインドフルネスのトレーニングを組み合わせて、幸福に至るための道筋をみつけられることが期待されます」と、研究グループはまとめている。

広島大学大学院総合科学研究科
Mindfulness as a Moderator in The Relation Between Income and Psychological Well-Being(Frontiers in Psychology 2018年8月13日)
[Terahata]
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