勤務問題で自殺する人が近年増加傾向に 子ども・若者、女性の自殺者数増加が喫緊の課題
コロナ禍など社会情勢の変化も踏まえながら、子ども・若者、女性の自殺者数増加を喫緊の課題と受け止め、大綱の見直しに向けて論点を整理している。
政府は自殺対策基本法に基づき、推進すべき自殺対策の指針として自殺総合対策大綱(以下、大綱)を策定。おおむね5年を目処に見直すとされ、2017年に策定された第3次の大綱から5年が経過する今夏を目処に、新大綱の策定を目指している。
有識者会議は「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現」に向け、取り組むべき課題について議論。新大綱のあり方について検討し、報告書をまとめた。
新型コロナウイルス感染症の影響が広がった2020年は特に女性や小中高生の自殺者が増え、総数は11年ぶりに前年度より増加。2021年の総数は前年度から減少したものの、女性の自殺者数は増加、小中高生の自殺者数は過去2番目の水準となるなど深刻な状況が続いている。
そのため有識者会議ではコロナ禍が人々に与える影響も考慮しつつ、子ども・若者、女性の自殺者数増加を喫緊の課題として検討し、大綱の見直しに向けて論点を整理。14の論点を総論や個別施策などに分けて、議論の結果を取りまとめた。
総論の1つとして挙げた「関連施策及び関係機関の有機的な連携を図り、総合的な対策を推進」では、自殺にいたるまでには複数の要因が複雑に関係していることから、包括的な「生きる支援」で関連施策と連携を図る重要性を提示。
地域内では、相談窓口と、実際に支援を担う機関や団体とがネットワークを形成し、必要な情報の共有や連携の充実が必要だとした。これらの連携においては、関係者間の連絡や調整を担う人材の養成と配置とともに、個人情報の取り扱いに関する体制整備も推進する必要がある、と述べている。
また、精神科医療と保健、福祉施策との連携についても言及。自殺者のうち、精神疾患を経験していながら医療にかかっていなかった人が過半数を超える、という実態を踏まえ、適切な医療につながる体制づくりを求めた。特に子どもの心の診療に専門的に携わる医師や関係専門職の育成が大事だとしている。
総論ではほかにも、新型コロナウイルス感染症の影響も踏まえた支援や、自殺者や同未遂者、親族の名誉や生活の平穏への配慮についても論点を整理した。
一方、個別施策では「子ども・若者の自殺対策の更なる推進」や「女性に対する支援」、「インターネット利用への対応」など10の論点について要点をまとめた。
このうち「相談体制の充実と、支援策や相談窓口情報等の分かりやすい発信」では労働者だけではなく、個人事業主や経営者のケアのため、経済・経営に関する相談ができる仕組みを整えるよう求めた。
また「勤務問題による自殺対策の更なる推進」では、勤務問題で自殺する人が近年、増加傾向にあると指摘。テレワークで労働時間管理が困難になった結果、生じている過重労働や、孤独感・疎外感を持ちやすいという調査結果も考慮し、テレワークの適切な運用と「職場におけるメンタルヘルス対策をさらに推進することが必要」とした。
副業や兼業についても労働時間管理の困難から長時間労働になりがちな点を挙げ、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の更なる周知と勤務時間管理の徹底をはかるよう指摘した。
2026年までに自殺死亡率を、2015年と比べて30%以上減少させる、とする現大綱の数値目標は達成されていない。報告書では、新大綱でもこの目標数値を引き続き継続し、目標の達成に向けて関係者が連携するとともに、「誰も自殺に追い込まれることのない社会」の実現を目指していくようまとめている。
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