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腸内フローラで女性の健康を増進 腸内環境は月経前症候群(PMS)にも影響 PMSが重い女性は善玉の腸内菌が減少

 近畿大学は、日本人女性を対象に、「月経前症候群(PMS)」と「腸内フローラ」の関連について調べ、PMSが重い女性では、抗うつ作用への関与が期待される「酪酸産生菌」や、脳内神経伝達物質を産み出す「GABA産生菌」とった、善玉の腸内菌が減少していることを解明した。

 PMSのある女性の腸内フローラの特徴を世界ではじめて明らかにした研究で、こうした善玉の腸内菌とPMSの発症は関連しており、食事療法やプロバイオティクスなど、簡便で体への負担が少ない治療法により改善できる可能性があるとしている。

月経前症候群の簡便で体への負担が少ない治療が求められている

 近畿大学は、日本人女性を対象に、「月経前症候群(PMS)」と「腸内フローラ」の関連について調べ、PMSのある女性の腸内フローラの特徴を、世界ではじめて明らかにした。

 ヒトの腸管内には、100兆から1,000兆個の数の、種類にして約1,000種類の腸内細菌が生きている。顕微鏡で腸のなかをみると、それらはまるで植物が群生している「お花畑(フローラ)」のようにみえることから、腸内フローラと呼ばれている。

 一方、「月経前症候群(PMS)」は、月経前の3~10日のあいだ続く、精神的あるいは身体的症状で、月経とともに減少または消失する。イライラ・おちこみ・不安感といった精神症状と、腹部膨満感・乳房症状といった身体症状がみられる。

 PMSは、月経前の不快な精神・身体症状を特徴とし、女性のパフォーマンスを妨げることから、女性の活躍促進が求められる現代社会で、注目されている疾患だ。

 しかし、標準治療である「低用量ピル」や、抗うつ薬である「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」は、一般的にはあまり受け入れられておらず、十分な治療が行われていない。そのため、簡便で体への負担が少ない治療法の開発が求められている。

PMSの女性の腸内フローラの特徴を解明

 腸内フローラは、"もうひとつの臓器"として、宿主と腸管上皮を介して、免疫・代謝・内分泌系などのさまざまな相互作用に関わり、生体バランスの調整・維持に関わっていると考えられている。

 次世代シーケンスによるメタゲノム解析により、腸内フローラとさまざまな疾患との関連が分かってきた。そのため、腸内フローラを新たな治療ターゲットとした研究は増えている。

 うつ病などのメンタルヘルスの分野でも、脳と腸内フローラの関連について注目されている。PMSは、うつ病と多くの共通点がみられるが、その原因は詳しく分かっておらず、PMS患者での腸内フローラについても、これまで検討されていなかった。

 そこで研究グループは、PMS患者での腸内フローラの特徴を明らかにするため、中等度以上のPMS患者と、PMS症状の自覚がない健常者を対象に、調査を実施した。

PMS症状の重症度と腸内細菌とのあいだに相関性が

 研究には、2019年~2020年に、PMSの症状が重く、社会生活の障害を自覚し、産婦人科クリニックを受診した21人の女性と、中等度以上のPMS症状の自覚がなく、健診などを受診した女性22人が参加した。

 それぞれの腸内フローラについて、次世代シーケンスによるメタゲノム解析を実施した。これは、多種類の細菌のDNAを、1度にまるごと解析できる新しい技術で、腸内フローラの解析に汎用されている方法。

 その結果、以下の4点が明らかになった。
1. PMS患者と健常者とでは、腸内フローラが異なっている。
2. いくつかの腸内細菌が、PMS患者と健常者において、特徴的な分布を示している。
3. PMS症状の重症度と、いくつかの腸内細菌とのあいだに、相関性がみられる。
4. これらの特徴は、これまでのうつ病患者で報告されているものとは異なる。

善玉の腸内菌を活用したPMS改善に期待

 今回の研究で、PMSとの関連性が示された腸内細菌には、抗うつの改善作用を期待できる「酪酸産生菌」や、PMSの病態生理にも関連する脳内神経伝達物質を産み出す「GABA産生菌」がある。

 PMSの重い女性患者では、これらの善玉の腸内菌の減少がみられることから、腸内細菌とPMS発症は関連している可能性が示された。

 こうした善玉の腸内菌を活用した健康増進法として、「プロバイオティクス」や「プレバイオティクス」が期待されている。

 プロバイオティクスは、乳酸菌やビフィズス菌など微生物のことで、腸内細菌叢のバランスを改善することにより、宿主の健康に好影響を与えると考えられている。また、プレバイオティクスは、オリゴ糖類や食物繊維類などの、善玉菌のエサとなって、善玉菌を増やす働きをもつ食品成分のこと。

 研究は、近畿大学東洋医学研究所の武田卓所長を中心とする研究グループによるもの。研究成果は、科学誌「PLOS ONE」にオンライン掲載された。

 「今回の研究をきっかけとして、今後、PMS診断マーカーの開発や、食事療法、プロバイオティクスやプレバイオティクスといった、簡便で体への負担が少ない治療法の開発が期待されます」と、研究グループでは述べている。

近畿大学東洋医学研究所
Characteristics of the gut microbiota in women with premenstrual symptoms: a cross-sectional study (PLOS ONE 2022年5月27日)
[Terahata]
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