【オピニオン公開中】「ナッジ」を応用した健康づくり 誰もが健康になる社会を目指して
保健活動において、対象者の行動変容を支援することは容易ではありません。近年、行動変容をそっと後押しする手法としてナッジ(Nudge)が注目されています。 いわゆる健康無関心層にも積極的にアプローチする"新たな手法"として大きな期待があり、現場の専門職においても、ナッジを活用することが求められつつあります。
このたびオピニオンコーナーにて、「ナッジ」を応用した健康づくり」と題して、杉本 九実 先生(帝京大学大学院公衆衛生学研究科)に、健康づくりの要である食生活、運動、健診・保健指導、喫煙対策にナッジをどう応用するか、そのヒントを4回にわたってご紹介いただきました。
No.1 今、注目の「ナッジ」とは-食行動・食生活支援にナッジを応用するヒント-
今、注目の「ナッジ(Nudge)」とは?
産業保健や地域保健において今、「ナッジ」が注目されています。ナッジとは「人々を強制することなく、望ましい行動に誘導するようなシグナルまたは仕組み」と定義されます。また、「ひじで軽くつく」「そっと後押し」などの意味もあります。 ナッジは行動経済学の一概念であり、実践の中で応用するための手法です。行動経済学は、2017年にリチャード・セイラー氏が、ノーベル経済学賞を受賞したことで社会的に大きく注目されました。
No.2 職域や地域の運動・身体活動支援にナッジを活かすポイント -環境デザインをも視野に入れたナッジの可能性-
運動・身体活動支援にナッジは効果的か
職域や地域では、ウォーキングイベントやアプリを用いた活動量管理など、さまざまな運動・身体活動支援の活動や取り組みがあります。「健康経営度調査結果集計データ」によると、運動習慣の定着に向けた支援を実施している企業は90%を超え、職域での実施率は高い傾向にあります。
一方で、「国民健康・栄養調査(令和元年)」では、運動習慣のある者の割合は、男性33.4%、女性25.1%で、この10年間、男性では有意な増減はなく、女性では有意に減少しています。専門職や健康づくり担当者にとっても、運動機会を増やす活動や取り組みを行ってはいるものの「運動を継続することができない」「マンネリ化で参加者が減少している」などの課題を抱えているケースも多いのではないでしょうか。
No.3 健診・保健指導にナッジを応用するヒント -保健指導に活かす「15の〈し〉と〈じ〉」とは?-
健診・保健指導を促す2つのナッジ
さまざまな保健活動の中でも、健診の受診や保健指導の利用勧奨を促すナッジの応用事例は比較的多くあります。 例えば、2018年に国立がん研究センターは、NHKの人気番組「ガッテン!」とコラボレーションし、乳がん検診受診勧奨のビッグプロジェクトを行いました。
プロジェクトは、番組で乳がん検診を特集し、乳がんへの関心が高まるタイミングで検診案内を届けるというものです。国立がん研究センターが全国1,747のすべての市区町村に呼びかけたところ、360以上の市区町村がこのプロジェクトへの参加を表明し、乳がん検診を受けていない40歳以上の女性86万人に、共通の案内はがきが届けられました。
同時期に、各参加自治体で広報誌やホームページなどでも広報活動を行うことで、がん検診への認知と受診の動機を高めることができ、結果として受診率が大きく上昇したことが報告されています。
No.4 最大の難問・喫煙対策にナッジでどう挑むのか -JASTIS研究からみえる喫煙対策のすすめ-
喫煙対策はナッジの視点で見直しを
康増進法の改正に伴い、2020年には職域や地域で受動喫煙防止対策が義務化されました。 労働安全衛生調査(実態調査)によると、職場で受動喫煙機会がある労働者の割合は減少傾向にあり、職域における受動喫煙環境は改善されつつあります。
一方で、受動喫煙防止を目的に環境改善したとしても、喫煙者に禁煙してもらうのは容易ではありません。専門職は日々、何とか喫煙率を下げようとさまざまな対策を試みてはいますが、なかなか結果に結びつかないことも多いです。まさに、喫煙対策は保健活動の中でも最大の難問なのです。
オピニオン執筆者ご紹介
杉本九実(帝京大学大学院公衆衛生学研究科) 帝京大学医療技術学部看護学科 非常勤講師 帝京大学大学院公衆衛生学研究科 博士後期課程 株式会社PONO 代表取締役 保健師、看護師、第一種衛生管理者、公衆衛生学修士(専門職) 順天堂大学医療看護学部卒業。 <経歴> 順天堂大学医学部付属順天堂医院等を経て、株式会社PONO設立。開業保健師として、企業等の産業保健活動のコンサルタントや実務に従事。
保健指導リソースガイド「オピニオン」について
保健指導の現場で活躍する保健師・管理栄養士など、各領域に精通した専門職の方にそれぞれが取り組んでいる活動の現状や課題、今後の在り方などについての意見・提言を、連載でご紹介いただくコーナーです。
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