保健事業の継続性を、生涯にわたり途切れさせないために
「令和4年度地域・職域連携推進関係者会議」より
厚生労働省は、1月19日、「令和4(2022)年度地域・職域連携推進会議」を開催した。地域保健、職域保健、保険者担当者がオンラインで参加し、地域・職域連携の方策について検討が行われた。その模様はライブ配信され、全国の地域・職域連携に携わる関係者たちが視聴した。
現在、都道府県や二次医療圏単位で地域・職域連携推進協議会などが設置され、生涯を通した継続的な保健サービスの提供体制を構築するための方策が進められている。今回の会議では「地域住民のヘルスプロモーションを見据えた事業の展開」という観点から議論が交わされた。
地域全体の健康課題が正確に把握できない
日本は世界に類を見ない長寿国である。国民皆保険制度を維持していることや世代ごとに保健サービスが充実しているからといわれている。
だがその一方で、保健事業は、乳幼児から高齢者まで世代ごとにさまざまな制度や法令を根拠に"縦割り"で実施されており、その目的、対象者、実施主体、事業内容がそれぞれ異なっている。これに伴い、保健事業の継続性が途絶えてしまうことや地域全体の健康課題が正確に把握できないことなどが指摘されてきた。
そこで厚生労働省は、生涯を通した継続的な保健サービスの提供体制を構築するため、2005年に『地域・職域連携推進ガイドライン』を作成し、地域・職域連携推進事業の推進を図った。翌年からは全国の関係者を集めた本会議も毎年開催し、地域・職域連携事業の推進にあたって検討がなされてきた。
2019年には『ガイドライン』を改訂し、在住者や在勤者の違いによらず、地域に関係する人たちへ、地域・職域双方の保健関係者が連携して、具体的な取り組みを行うことなども促している。
今年の会議では、地域保健、産業保健そして保険者の動向などの「行政説明」が行われ、その後、ガイドライン改訂にも関わった津下一代氏(女子栄養大学特任教授)の基調講演と好事例報告を含むシンポジウムが行われた。
退職後の保健指導が継続できていない
会議での「行政説明」報告などをみると、連携は少しずつ進んでいるとはいえ、まだまだ大きな課題を抱えていることがわかった。
保健事業は、「健康増進法」「労働安全衛生法」「健康保険法」「高齢者医療確保法」などさまざまな法律に基づいて行われている。そのため「制度間のつながりが明確ではなく、地域全体の健康状態が把握できていない。また退職後の保健指導が継続できていない」と五十嵐久美子氏(厚労省健康局健康課保健指導室長)は地域保健の現状を報告した。
働き盛り世代が、退職後に地域に戻ってくると、健診や保健指導のデータが地域に引き継がれず、継続した保健指導ができていないのが実情のようだ。
以前、保健活動の現場でも、産業保健師が、地域保健に携わる保健師に「あなたたちの手から脱落した人たちが、悪化して私たちのところへやってくる。もっと早くから対応できていれば何か手立てがあったのかも」と言われたことがあったという。
一方、産業保健師からは「生活習慣の課題を抱えている従業員を、退職後にどこへつなげていけばよいかわからない」という声も聞かれる。
20年ほど前から地域・職域の連携が謳われてきたが、依然として乗り越えなければならない課題があることが浮き彫りになった。


「地域保健」に関するニュース
- 2025年08月21日
- 令和7年(1月~7月)の自殺者は11,143人 前年同期比で約10%減少(厚生労働省)
- 2025年08月21日
- 歯の本数が働き世代の栄養摂取に影響 広島大学が新知見を報告
- 2025年08月13日
-
小規模事業場と地域を支える保健師の役割―地域と職域のはざまをつなぐ支援活動の最前線―
【日本看護協会「産業保健に関わる保健師等の活動実態調査」】〈後編〉 - 2025年08月07日
- 世代別・性別ごとの「総患者数」を比較-「令和5年(2023)の患者調査」の結果より(日本生活習慣病予防協会)
- 2025年08月06日
-
産業保健師の実態と課題が明らかに―メンタルヘルス対応の最前線で奮闘も、非正規・単独配置など構造的課題も―
【日本看護協会「産業保健に関わる保健師等の活動実態調査」】〈前編〉 - 2025年07月28日
- 日本の「インターバル速歩」が世界で話題に 早歩きとゆっくり歩きを交互に メンタルヘルスも改善
- 2025年07月28日
- 肥満と糖尿病への積極的な対策を呼びかけ 中国の成人男性の半数が肥満・過体重 体重を減らしてリスク軽減
- 2025年07月28日
- 1日7000歩のウォーキングが肥満・がん・認知症・うつ病のリスクを大幅減少 完璧じゃなくて良い理由
- 2025年07月28日
- 【妊産婦を支援】妊娠時に頼れる人の数が産後うつを軽減 妊婦を支える社会環境とメンタルヘルスを調査
- 2025年07月22日
- 【大人の食育】企業や食品事業者などの取り組み事例を紹介 官民の連携・協働も必要 大人の食育プラットフォームを立ち上げ