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適度なアルコール摂取は脳のストレス反応の軽減と関連 心臓発作や脳卒中が減少 5万人超を調査

 軽度から中度の飲酒をしている人は、心臓発作や脳卒中が大幅に少ないことが、5万人超の米国人を対象とした研究で示された。

 軽度から中程度の量のアルコール摂取は、脳内のストレスシグナル伝達を減少させることが明らかになった。

 ただし、アルコールを少し飲み過ぎただけで、がんのリスクが高まるなど、健康への悪影響も確実にあることが示された。アルコール摂取の健康への影響について解明し、的を絞った介入をする必要があるとしている。

適度の飲酒をしている人は心臓発作や脳卒中が大幅に少ない

 軽度から中度の飲酒をしている人は、心臓発作や脳卒中が大幅に少ないことが、5万人超の米国人を対象とした研究で、明らかになった。

 軽度から中程度の飲酒が心血管疾患を軽減することは、過去の疫学研究でも報告されているが、米マサチューセッツ総合病院は今回の研究で、脳画像検査も行い検証した。

 その結果、軽度から中程度の飲酒量の人は、飲まない人や飲酒量が少ない人に比べて、ストレス反応に関連する脳領域である扁桃体でのストレスシグナル伝達が低下していることが示された。

 「軽度から中程度の飲酒をしている人では、脳が変化していることが、心臓の保護効果のかなりの部分を説明していると考えられます」と、同病院心臓血管画像研究センターの共同所長で心臓病専門医のアーメド タワコル氏は言う。

 軽度から中程度のアルコール摂取は、男性は1日2ドリンク(ビールだと500mL)まで、女性は1日1ドリンク(ビールだと250mL)までとされている。

 ただし、酔いとは、アルコールの作用で脳の活動が徐々に麻痺していくことで、飲み過ぎはアルコール中毒のリスクを高めることにも注意が必要だ。

 さらに、過度の飲酒が慢性化しアルコール依存になると、確実に健康を害することになるので、アルコール摂取の指導は慎重に行う必要があるとしている。

 「今回の研究は、心臓発作や脳卒中のリスクを軽減するために、アルコールの使用を推奨するものではありません。アルコール摂取には、健康に及ぼすさまざまな懸念すべき影響がありますが、アルコールの悪影響を及ぼさずに、その心臓保護の効果を引き出すアプローチをみつけることには意義があると考えます」としている。

関連情報

アルコールにより不安などの刺激に対する脳の反応が低下

 脳の側頭葉内側の奥にある扁桃体は、情動と感情の処理や直観力、さらにはストレスに対する不安や恐怖の感情が発生する過程で、重要な役割を果たすとみられている。

 飲酒により、アルコールが不安などの刺激に対する扁桃体の反応が低下することが知られている。

 今回の研究は、「軽度から中程度のアルコール摂取が、扁桃体の活動を抑制する神経生物学的な影響を及ぼし、それが心血管系の保護効果をもたらす可能性をはじめて示したもの」としている。

 研究グループは今回、軽度から中程度のアルコール摂取が、うつ病や不安症の病歴をもつなど、慢性的に高いストレス反応を起こしやすい人々の心臓発作や脳卒中を軽減するのにさらに効果的であるかどうかについても調べた。

 その結果、不安症の病歴のある人では他の人に比べて、軽度から中程度の飲酒により、心臓を保護する効果がほぼ2倍に高まることに関係していることを明らかにした。

 「扁桃体の役割について、十分には解明されていないものの、精神的ストレスと深い関連があることが分かってきました。扁桃体が警戒しすぎると、交感神経系が亢進し血圧が上昇し、心拍数が上昇し、炎症細胞の放出が引き起こされます」と、タワコル氏は説明する。

 ストレスが慢性化すると、高血圧、炎症の増加、肥満、糖尿病、心血管疾患のリスクが高まるメカニズムの一部は、扁桃体でのストレス伝達によって説明できるとしている。

少し飲み過ぎただけでがんのリスクは増加 やはり飲み過ぎは健康を害する

 しかし研究では、軽度から中程度の飲酒者は、心血管疾患のリスクが低下すると同時に、がんのリスクは増加することも示された。アルコールの量に関係なくがんのリスクは上昇した。

 さらに、週に14ドリンク以上、推奨量の7倍以上にアルコール摂取量が増えると、心臓発作のリスクが増加し、脳全体の活動の低下もみられた。これは、過度の飲酒が、認知機能の健康への悪影響と関連している可能性を示している。

 研究診グループは、「アルコールの悪影響を及ぼさずに、脳のストレス活動を軽減する新たな介入をみつけることに焦点をあてるべき」と結論している。

 アルコールに頼らない、運動や瞑想などでストレスを軽減する介入や、薬物療法によりストレスに関連する神経ネットワークを管理したり、さらに、それらが心臓血管にもたらす効果についての研究も必要としている。

軽度/中度のアルコール摂取によりMACEリスクは21.4%減少

 研究グループは今回、13万5,000人以上を対象に遺伝因子や生活スタイルなどが健康にもたらす影響を調査している大規模調査「マサチューセッツ ジェネラル ブリガム バイオバンク」に参加した5万3,064人(年齢中央値60歳、60%が女性)のデータを解析した。2万3,920人は、飲酒習慣がないか、飲酒量が最小限だった。

 さまざまな遺伝因子、臨床因子、生活スタイル、社会経済的な交絡因子を調整したうえで、軽度/中度のアルコール摂取と主要で有害な心血管イベントとの関係を評価した。

 その結果、中央値3.4年の追跡調査により、他の心血管危険因子を考慮したうえで、軽度または中程度のアルコール摂取は心血管疾患イベントのリスクの大幅な減少と関連していることが示された。

 1,914人が主要心血管イベント(MACE)を発症したが、軽度/中度のアルコール摂取をしていたグループでは、MACEのハザード比は0.786(95%CI 0.717~0.862、P<0.0001)となった。

 さらには、PET/CT脳画像検査を受けた713人の参加者では、軽度/中度のアルコール摂取は、ストレス関連神経ネットワーク活動(SNA)の減少と関連することが示された(標準化ベータ -0.192、95%CI -0.338~-0.046、P=0.01)。

Mass General Hospital Researchers Uncover Why Light-to-Moderate Drinking Is Tied to Better Heart Health (マサチューセッツ総合病院 2023年6月12日)
Reduced Stress-Related Neural Network Activity Mediates the Effect of Alcohol on Cardiovascular Risk (Journal of the American College of Cardiology 2023年6月)
[Terahata]
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