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「産後うつ」の病態を解明 妊娠中から予測し予防的な対策を 健やかな母子家庭環境を維持するために

妊娠期から産後は、精神障害のリスクの高い時期で、日本では10%~15%の母親が産後うつになるとみられている。
産後うつ症状を呈する母親では、妊娠中の抗炎症サイトカインのレベルが低い値を示すことが明らかになった。
また、産後うつに関連して、エネルギー産生に中心的な役割を果すクエン酸経路で、異常を生じていることも分かった。
「妊娠中から産後うつを予測し、予防的な対策を講じる手段につなげることを期待しています」と、研究グループは述べている。
母親の10%~15%が産後うつに
産後うつは、産後1ヵ月から3ヵ月以内に発症することの多い抑うつ症状。気分の落ち込みや楽しみの喪失、自責感や自己評価の低下などの症状がある。 女性のライフイベントのなかで、妊娠や出産は、身体的のみならず精神的にも大きな影響をもたらす。妊娠期から産後は、精神障害のリスクの高い時期で、日本では10%~15%の母親が産後うつになるとみられている。 産後うつは、重篤なうつ病、自死や育児放棄、児への虐待、家族関係への影響など、さまざまな社会問題と深く関わっており、大きな課題になっている。 産後うつ病では、妊娠から出産にいたる生活スタイル、環境、心身状態の変化に関連した、さまざまな代謝産物の変動が生じていることが知られている。 また、妊娠から産後には、免疫機構のダイナミックな変動が起こり、それが精神状態や精神疾患への罹患と関連することが注目されている。しかし、産後うつとの関連については、これまで大規模な検討はされていなかった。 関連情報炎症を抑制する働きをもつ抗炎症性サイトカインが低下
東北大学の研究グループは、妊娠中の女性で、血中の多くのサイトカインのレベルに変化が生じており、産後うつ症状を呈する母親では、妊娠中の抗炎症サイトカインのレベルが低い値を示すことを明らかにした。 サイトカインは、細胞間の情報伝達を担っている、主に免疫系細胞から分泌されるタンパク質で、そのうち抗炎症性サイトカインは炎症を抑制する働きをする。 研究グループは、研究に参加した妊産婦のうち、産後にうつ症状を呈する妊産婦と、症状を呈さない妊産婦の、妊娠中と産後の血漿中の代表的なサイトカインのレベルを比べた。 東北メディカル・メガバンク計画による三世代コホート調査に参加した妊産婦のうち、産後1ヵ月に産後うつ症状を呈した247人(産後うつ群)と、抑うつ兆候のない妊産婦243人(対照群)を対象に調査。 その結果、条件によっては炎症を抑制する働きをもつ抗炎症性サイトカインであるIL-4が、産後うつ群では妊娠中と産後の両方で有意に低下していた。 さらに、同じ抗炎症性サイトカインのIL-10は、妊娠中でのみ産後うつ群で有意に低いことが示された。 「妊娠中の抗炎症サイトカインレベルは、産後の心の健康状態と関連している可能性があります。この成果は、産後うつの病態解明につながるほか、マーカーとして活用することで妊娠中から産後うつを予測し、予防的な対策を講じる手段につなげることを期待しています」と、研究グループでは述べている。
妊娠中の抗炎症サイトカインの低下は、産後の心の健康状態と関連
炎症を抑制する抗炎症性サイトカインが減少
炎症を抑制する抗炎症性サイトカインが減少

出典:東北メディカル・メガバンク機構、2023年
エネルギー産生に中心的な役割を果すクエン酸経路にも異常が
東北大学による別の研究では、産後うつに関連して、血漿中のクエン酸回路の代謝異常が生じていることが明らかになっている。 クエン酸経路は、エネルギー産生に中心的な役割を果す代謝経路で、アミノ酸・尿素・糖など、多くの代謝経路に関与している。 「研究では、妊娠中後期から産後1ヵ月にかけての代謝物の変動パターンを示し、産後うつ症状を呈する妊産婦さんに特徴的な代謝物の変動パターンを突き止めました」と、研究グループでは述べている。 「研究成果は、産後うつ病の客観的評価法や予防法の開発に大きく貢献するだけでなく、産後うつ病の病態解明や見出した代謝物をターゲットとした食品や薬品の開発に寄与することが期待されます」としている。 研究グループは、健常者および産後うつ症状を呈する母親の妊娠中後期と産後の血漿中の代謝産物を網羅的に解析。 その結果、産後うつ症状を示す母親は、その兆候のない母親に比べて、妊娠中後期から産後1ヵ月時点までに、血漿中のエネルギー産生に中心的な役割を果す「クエン酸回路」に関連する、代謝産物のプロファイルが異なっていることが分かった。
産後うつ症状のある母親は、妊娠中から産後にかけて、特徴的な代謝物の変動パターンを示す

出典:東北メディカル・メガバンク機構、2023年
「東北メディカル・メガバンク計画」の成果
「東北メディカル・メガバンク計画 三世代コホート調査」は、2012年度に始められた、東日本大震災被災地を中心とした計15万人規模の地域住民コホート調査、および妊婦とその胎児を中心とした三世代コホート調査。これまで多くの成果を発表している。 東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)と岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構が実施機関となっている。 東北メディカル・メガバンク機構東北メディカル・メガバンク機構 長期健康調査 (地域住民コホート調査・三世代コホート調査)
Association between low levels of anti-inflammatory cytokines during pregnancy and postpartum depression (Psychiatry and Clinical Neurosciences 2023年6月15日)
Plasma metabolic disturbances during pregnancy and postpartum in women with depression (iScience 2022年11月22日)
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