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【新型コロナ】子育て世代の女性をサポート 身体症状からメンタル不調を早期発見できる 心の健康度を見える化
2023年01月10日

大阪大学は、子育て世代の女性の身体症状からうつ症状を発見するための尺度を開発したと発表した。
これまで、医療機関の受診をためらっていた女性や、自分では気づいていない女性など、隠れていたうつ予備群でも、うつの早期発見が可能になるという。
この尺度は、測定状況に影響されない身体症状に特化した質問項目でスクリーニングするもので、子育て世代のうつのスクリーニングとして期待できるだけでなく、身体症状の改善を目標にさまざまな解決策を提示することもできる。
「うつ傾向となっている多くの子育て世代の女性のサポートにつながっていくことが期待されます」と、研究者は述べている。
「産後うつ」は子育て世代の女性にとって大きな問題 コロナ禍で増加・長期化
「産後うつ」は、出産後数ヵ月以内に発生する"うつ病"。多くの女性は、出産後の経過が正常な場合でも、何らかの精神的な変調を経験する。ホルモンの急激な変化、出産そのものによるストレスや疲労、周囲のサポート体制の有無などが関係しているとみられている。
少子化が進む日本で、産後うつは子育て世代の女性にとって大きな問題となっている。うつ病は早期発見、早期治療が大切だが、コロナ禍で、産後うつは増加し、長期化が問題となっている。
また、うつが疑われても、専門医への受診率は低く、身体症状を主訴に受診する人が多いため、非専門医でのうつ病のスクリーニングも容易ではない。
そこで大阪大学の研究グループは、漢方の「気血水」の考え方をもとに、身体症状の質問を組み合わせることで、うつ病のリスク評価ができる新たな尺度(MDPS)を開発した。
東洋医学では、気(き)・血(けつ)・水(すい)の3要素が体内を循環することで、生命活動を維持すると考えられている。「気」は目に見えない生命活動を維持する根源的なエネルギー、「血」は生体の物質的側面を支える赤い液体、「水」は体の物質的側面を支える透明な液体。
開発した新しい尺度である「MDPS」は、漢方の気血水概念にもとづいた、身体症状に関する17項目の質問を5つのカテゴリーに分類し、組み合わせることで、軽症以上のうつをスクリーニングできるというもの。
身体症状からうつ症状をスクリーニングする新しい尺度「MDPS」
気(身体活動度、うつ症状の身体的側面)・血(ホルモン関連、微小循環)・水(気象病)
の3要素で判定
気(身体活動度、うつ症状の身体的側面)・血(ホルモン関連、微小循環)・水(気象病)
の3要素で判定

出典:大阪大学、2022年
関連情報
身体症状からうつ症状をスクリーニングできる新しい尺度「MDPS」
研究グループが、子育て世代(産後0~6年以内)の女性1,135人を対象に、MDPSの検証を行ったところ、MDPSは従来のうつ尺度(BDI-II)と高い相関を示した。
さらに、産後うつのリスク因子を加えて多変量ロジスティック回帰分析を行った結果、MDPSに「月経再開の有無」を加えたMDPS for mothers (MDPS-M)により、子育て世代の女性で軽症以上のうつが80%以上の感度で検出できることを明らかにした。
これまで、産後うつは、産後数ヵ月をピークに10~15%の母親にみられることが知られていたが、昨今のコロナ禍で、その割合は20~30%に増加し、重症化していると報告されている。
ところが、産後の健診では、母親自身の健康にスポットがあたる機会が少なく、また子育てで負の感情を吐き出しにくいという日本の育児環境や、最初に身体症状を主訴に非専門医を受診することが多いなどの理由から、産後うつのスクリーニングは困難だった。
世界的によく使用されている「エジンバラ産後うつ病質問票」でさえ、質問に答える際に環境設定が必要であり、これまでのうつ尺度は評価環境に影響されるという問題点があった。
さらに、産後うつは、これまで産後1年以内のものと考えられてきたが、近年にはその遷延化が指摘されつつある。そのため、出産を契機に心の健康を損なう可能性が大いにあるという。
「MDPS」と既存のうつ尺度「BDI-II」を比べたところ高い相関性が示された

出典:大阪大学、2022年
うつを早期発見し支援 産後・子育て世代の身心を支える
研究は、大阪大学大学院医学系研究科先進融合医学共同研究講座(共同研究講座:ツムラ)の竹内麻里子医員、萩原圭祐特任教授(常勤)らの研究グループによるもの。検証は、京都大学大学院教育学研究科の明和政子教授と共同で実施した。研究成果は、「Frontiers in Psychiatry」にオンライン掲載された。
「本研究成果により、身体症状をもとに産後・子育て世代の軽症うつの早期発見が可能になりました。MDPSは気血水概念にもとづく質問であるため、回答結果により、食事などの生活指導をはじめ、薬物治療までの具体的介入方法が想定されます」と、研究グループでは述べている。
「産後の母親の身心を支えることで、子供の成長や母親自身のその後の人生もより健康的なものになっていくことでしょう。本尺度の長所は、身体症状に関する質問であるため、抵抗なく答えられ、かつ評価環境に左右されないところにあります。非専門医でも扱いやすく、子育て世代のうつのスクリーニングに役立つと考えられます」。
「今後は、子育て世代の女性以外の勤労年代や男性にも使える尺度として改良していくことで、社会全体へのさらなる貢献を目指します」としている。
感度84.9%の高い精度を確認
子育て世代(産後0~6年以内)の女性1,135人を対象に、MDPSと世界的に広く使われているうつ尺度(BDI-II)との検証を行ったところ、両者の高い相関性を見出すことができた(β=0.47、p<0.0001)。
さらに、偏りなくランダムに抽出した785人を学習用データとして、産後うつのリスク因子を加えて多変量ロジスティック回帰分析を行い、MDPSに「月経再開の有無」を加えたMDPS for mothers (MDPS-M)を作成した。
検討の結果、MDPS-Mは、子育て世代の女性で軽症以上のうつを、感度84.9%、特異度45.7%で検出できることを明らかにした。検証用データとして残りの350人でも同様の解析を行なったところ、感度84.4%とほぼ同様の結果が得られ、その妥当性が確認されたとしている。
大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座A multidimensional physical scale is a useful screening test for mild depression associated with childcare in Japanese child-rearing women (Frontiers in Psychiatry 2022年12月1日)
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