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保育施設の早期利用が子供の発達を促進 1歳未満から利用した子供は発達が良好に 「3歳児神話」は根拠なし?

 エコチル調査に参加した約4万人のデータを解析し、保育施設の利用と子供の発達について調べた結果、1歳未満から保育施設を利用していた子供は、3歳まで保育施設を利用しなかった子供に比べて、3歳時点で発達が良いことが明らかになった。

 研究により、保育施設の早期の利用にポジティブな効果があることが示された。日本には、子供は3歳になるまでは、家庭で母親の手で育てないと、その後の成長に悪影響を及ぼすという「3歳児神話」という考え方が根強くあるが、それには合理的な根拠はないとしている。

出産・育児というライフイベントは重要

 男女が性別にかかわりなく能力を十分に発揮できる、男女共同参画社会を実現するために、出産・育児というライフイベントは重要であり、保育施設のより良い活用のあり方は課題になっている。

 そこで東北大学などの研究グループは、環境省などが推進する「子供の健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」の参加者のうち、約4万人のデータから、保育施設の利用と子供の発達について解析した。

 その結果、1歳未満から保育施設を利用していた子供は、3歳まで保育施設を利用しなかった子供に比べて、コミュニケーション・粗大運動・微細運動・問題解決能力・個人社会スキルの5つの領域で、3歳時点での発達が良いことが明らかになった。

 これまで早期の保育施設の利用に対して、否定的な意見が出されることが少なくなかった。

 「今回の結果により、早期の保育施設利用に対するポジティブな効果が、科学的根拠をもって示され、これまでのネガティブな印象が払拭されることが期待されます」と、研究者は述べている。

 なお、「保育施設と家庭での子育ての双方に、それぞれメリットがあり、今回の結果は、保育施設を利用しない家庭での子育てを否定するものではありません」としている。

 研究は、東北大学大学院医学系研究科発達環境医学分野の大学院生金森啓太氏、大田千晴教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載された。

関連情報

3歳未満の子供の保育施設への通園は増加

 「エコチル調査」は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露などが、子供の健康に与える影響を明らかにするために、2010年度から全国で約10万組の親子を対象に、環境省が開始した大規模かつ長期にわたる出生コホート調査。

 同調査は、国立環境研究所をコアセンターとし、国立成育医療研究センターを医学的支援のためのメディカルサポートセンターとし、日本の各地域の15の大学などに地域に調査の拠点となるユニットセンターを設置し、それぞれの機関が協働して実施されている。

 早期から家庭以外で教育やグループケアを行うことの利点は、世界的に知られるようになってきた。

 日本でも共働き世帯は増えているが、3歳未満の子供の保育施設への通園は世界的に増加している。

 幼稚園や保育園に早期から通うことが、子供の認知機能、言語、運動、心理社会性といった発達に良い影響を与えることはこれまでも報告されている。

 しかし、このテーマに関する先行研究のほとんどは、幼児教育・保育の長い歴史をもつ欧米諸国からのものであり、日本での大規模な調査はこれまで行われていなかった。

 日本にはかつては、子供は3歳までは家庭において、母親の手で育てないと、その後の成長に悪影響を及ぼすという「3歳児神話」の考えがあった。

 1998年の厚生白書で、この考えには合理的な根拠がないことが示されているものの、いまでもこうした考えは完全には払拭されていない。集団保育の早期の開始が、子供の発達にどのような影響を与えるかについて、現在でも議論が続いている。

 乳幼児を取り巻く環境は、国や文化によって大きく異なるため、このテーマについて議論を深めるためには、日本独自の大規模な調査を行うことが必要とされていた。

保育施設を利用している子供と利用していない子供を比較

 そこで研究グループは今回、エコチル調査に参加した約10万組の親子のうち、保育施設の利用状況に関する質問項目への回答に欠損のない約4万人を対象に、生後6ヵ月~1歳に保育施設の利用を開始し、その後3歳まで継続して利用していた子供を保育施設の利用群(曝露群、1万3,674人)とし、生後6ヵ月~3歳に保育施設を利用していない子供を保育施設非利用群(対照群、2万6,220人)として比べた。

 生後6ヵ月~3歳までのあいだで保育施設の利用状況に一貫性がない場合(2歳から利用を開始した場合など)は除外した。

 子供の発達の評価尺度には「ASQ-3」を使用した。この尺度は、生後1ヵ月~5歳半の小児の発達の遅れをみつけるために作られたスコアツール。内容は、コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決能力、個人社会スキル、の5つの領域に分けた、30項目の質問で構成されている。

 たとえば「上手に走り、何かにぶつかったり転んだりせずに止まりますか」などの質問に対して、保護者の方が回答し、回答に応じて点数が付けられ、それぞれの領域での合計点が算出される。

 ASQ-3にはカットオフ値が設定されており、今回の研究では、主な評価項目を、「3歳時点でASQ-3がカットオフ値を下回る」(発達の遅れが示唆される)子供の割合とし、曝露群と対照群の2つの群を比べた。

1歳未満から保育施設を利用した子供は発達が良好という結果に

 その結果、生後6ヵ月の時点では2つの群の発達に差はなかったが、3歳時点ではコミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決能力、個人社会スキルのすべてで、保育施設の利用群でASQ-3がカットオフ値を下回る割合が有意に少ない結果になった。

 カットオフ値を下回る割合は、保育施設の利用 対 保育施設非利用群で、コミュニケーション:2.1% 対 5.7%、粗大運動:3.8% 対 5.0%、微細運動:7.0% 対 8.4%、問題解決能力:5.6% 対 8.9%、個人社会スキル:1.7% 対 5.1%となった(すべての領域でp<0.001と統計学的に有意な差があった)。

 また、ASQ-3スコアの合計点の推移を比べたところ、とくに2つの群の差はコミュニケーションと個人社会スキルで目立った。

 「研究により、早期の保育施設の利用に対するポジティブな効果が示され、科学的な根拠に欠けるネガティブな印象を払拭することが期待されます。さらに、子供に多くの他者との交流や多様な経験を提供することの重要性を強調し、子供の発達を促進するために望ましい社会を形成していくことにつながると考えています」と、研究者は述べている。

 なお、「今回の研究では、3歳時点の発達を比べたに過ぎず、3歳以降の発達や、発達以外の母子関係やその子の心理的安定などを評価したものではなく、一概に保育施設での子育てが家庭での子育てに優れるということを結論付けるものではありません」としている。

保育施設利用の有無と3歳時点の発達との関連
保育施設利用群の方が3歳時点で、ASQ-3スコアの合計点が高く、発達が優れることが示された。とくにコミュニケーションと個人社会スキルで差が目立つ結果に。

出典:東北大学、2024年

エコチル調査 (子どもの健康と環境に関する全国調査 環境省)
エコチル調査宮城ユニットセンター: 子どもの健康と環境に関する調査
東北大学大学院医学系研究科発達環境医学分野 (環境遺伝医学総合研究センター)
Group childcare has a positive impact on child development from the Japan Environment and Children's Study (Scientific Reports 2024年11月28日)
[Terahata]
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