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「やせ過ぎ」「人と人のつながりの欠落」「喫煙」が高齢者の寿命を縮める
2018年03月07日

日本人の高齢者でもっとも改善の余地があるのは、男女ともに「やせ過ぎ」(低体重)で、男性では「友人との交流を増やし」「喫煙を減らす」ことで健康年齢の延長を期待できるという日英の国際比較研究を東北大学が発表した。
高齢者の寿命を決める社会や行動の要因を調査
日本人は、特に女性で世界的にも長寿だが、その秘訣を探る国際研究は少ない。また、世界的に高齢化が進んでいるなか、高齢者の平均寿命が余命と必ずしも一致しておらず、いかに健康寿命を延ばすかが課題になっている。
そこで日英の共同研究チームは、高齢者の寿命の差に寄与する社会的要因や行動要因を調べる研究を行った。
65歳以上の日本人1万3,176人、英国人5,551人を約10年追跡したデータを分析した結果、日本人は、英国人よりも、女性では319日、男性では132日、長生きであることが判明した。
研究は、東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学分野の相田潤准教授らによるもの。
関連情報
日本人と英国人の寿命の差を比較して解析
日本人と英国人の寿命の差がある原因を解析した結果、▽男性では、家族とのつながりがある人が多く、日本人が英国人よりも105日間分長生きであることが分かった。一方、友人とのつながりが多い英国人男性では、日本人男性よりも45日間の長生きしている。
喫煙については、▽たばこを吸わない人が日本人女性で多いことで、英国女性にくらべて198日長生きであることが分かった。逆に男性では喫煙が多く、英国人よりも寿命が47日間短い。
特筆すべきは、▽日本人の高齢者でもっとも改善の余地があるのは「低体重」だということだ。BMI(体格指数)が18.5未満を「低体重」と判定し、日本では男性で7.5%、女性で8.8%が、英国では男性で0.8%、女性で1.7%が該当した。日本人は低体重により、女性で129日、男性で212日も短命になっているという。
「これらの知見を活かすことで、両国でより効果的な健康政策が立案できる」と、研究チームは述べている。

65歳以上の高齢者を9.4年間追跡して調査
研究チームは、「日本老年学的評価研究プロジェクト」(JAGES)の2003年調査、および「英国縦断的高齢化調査」(ELSA)の2002~3年調査をベースラインに、65歳以上の高齢者を9.4年間追跡したコホート研究を分析した。
行動要因として、▽運動(スポーツクラブの参加の有無)、▽喫煙、▽飲酒、▽BMI(肥満度)を、社会要因として▽教育歴(社会経済状況の変数)、▽家族とのつながり(婚姻状態)、▽友人とのつながり(友人と会う頻度)を検討した。
JAGESに参加した男性は6,294人(平均年齢72.5歳)、女性は6,882人(平均年齢73.4歳)、ELSAに参加した男性は2,468人(平均年齢73.7歳)、女性は3,083人(平均年齢74.7歳)だった。
追跡期間中に日本では男性の31.3%、女性の19.3%が死亡し、英国では男性の38.6%、女性の31.3%が死亡した。開始時点の健康状態や年齢の差などを調整したうえで、日本人の女性は319日、男性は132日、英国人よりも生存期間が長かった。
人と人のつながりが寿命を延ばす
人と人のつながりは、ソーシャルサポートを増やしたり生活習慣を良くすることにつながり、健康を改善する。研究では、日英の家族(婚姻状態)および友人とのつながりの程度の違いと健康の関係について調査した。
その結果、結婚をしている人が日本の方が英国よりも多く、そのことが特に日本人男性の長寿につながっていることが分かった。一方で、特に日本人男性は友人と会わない人が多く、これが生存期間を短くする方向に働いている。
地域にサロンを設置することや趣味やスポーツの会があることで人々の交流が生まれて健康状態が良くなる可能性がある。こうした取り組みで人々のつながりを増やすことが重要だ。
低体重が高齢者の死亡を増やしている
また、低体重であると生存期間が短く、英国に比べて日本人高齢者に低体重の人が多いことが日本人の生存期間を縮めていることが判明した。
体重は重すぎても軽すぎても死亡率が高くなる。若い人に比べて高齢者では比較的重い体重で死亡率がもっとも低くなり、低体重の悪影響が大きい。
日本人は英国人に比べ肥満が少ない反面、低体重が高齢者の死亡を増やしている可能性がある。
喫煙は高齢者においても有害だ。英国では男女の喫煙率は同じくらい(男性 12.0%、女性 13.1%)だが、日本では男性が24.0%、女性が2.5%で、男性の喫煙率が高い。
日本人男性の喫煙率が英国人男性程度に下がれば、生存期間を大きく改善できる可能性がある。
「"友人や家族とのつながりを増やすこと""喫煙を減らすこと""低体重を改善すること"が長寿の達成に必要で、改善もしやすい。英国でできていることは、日本でも実現が可能」と、研究チームは述べている。
東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学分野behavioural determinants of the difference in survival among older adults in Japan and England(Gerontology 2018年1月19日)
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