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高血圧に特化した「治療アプリ」を開発 介入の難しい生活習慣改善を支援
2018年07月18日

自治医科大学の苅尾七臣教授の研究グループは、疾患治療用プログラム医療機器として「治療アプリ」の研究開発を行うキュア・アップと産学共同で、高血圧症に特化した「治療アプリ」の開発を行うと発表した。
同アプリは、血圧と生活習慣のデータをもとに患者ごとに個別に判定し、食事や運動、睡眠など最適な改善案を提案する。患者140人を対象にアプリの有効性を検証し、薬事承認を目指す。
同アプリは、血圧と生活習慣のデータをもとに患者ごとに個別に判定し、食事や運動、睡眠など最適な改善案を提案する。患者140人を対象にアプリの有効性を検証し、薬事承認を目指す。
高血圧の生活習慣改善の介入は難しい
2016年の国民健康・栄養調査によると、30歳以上の日本人男性の約60%、女性の約45%が高血圧と判定されている。しかし、生活習慣の改善については、介入(指導)法に関するエビデンスが少なく、確実な効果が得にくい状況にある。
高血圧は心血管病(脳卒中や心疾患)の最大のリスク因子で、高血圧に起因する死亡者数は年間10万人と推定されている。日本の高血圧患者の推定人口は4,300万人で、うち継続的に治療を受けている患者数は1,011万人に上る。
高血圧の年間医療費は1.8兆円で推移しており、糖尿病の1.2兆円に対しても高額だ。さらに高齢化も進むなか、心血管疾患全体の医療費は増加傾向にある。
高血圧の治療や予防には、生活習慣の改善が不可欠で、健康日本21(第2次)では、食生活・身体活動・飲酒などの対策推進により、国民の収縮期血圧平均値を10年間で4mmHg低下させることを目標としている。
しかし、生活習慣の改善は、患者の意欲や職場・家庭の生活環境の影響をうけやすく、継続が難しく、医療機関のみによる介入は効果を発揮しにくいという課題がある。
関連情報
患者ごとに最適な治療ガイダンスを提供する
こうした状況下、キュア・アップは、モバイルテクノロジーを適用した新しい医療のかたちとして、医学的エビデンスにもとづく個別最適化された治療ガイダンスを提供し、患者の意識・行動変容を促し、習慣化をサポートする「治療アプリ」の開発を進めている。
そこで、自治医科大学内科学講座循環器内科学部門の苅尾七臣教授の研究グループは、キュア・アップと共同で、高血圧に特化した「治療アプリ」を開発し、新たなプログラム医療機器としての薬事承認を目指して臨床研究を開始することになった。
「高血圧治療アプリ」は、IoT血圧計を用いた血圧モニタリングと生活習慣ログなどのデータから、個人の血圧特性と生活習慣を自動分析し、それぞれの患者に最適な治療ガイダンス(食事、運動、睡眠などに関する知識や行動改善を促すための情報)を提供する。
高血圧患者における降圧効果、生活習慣の改善との関係を評価し、同アプリの有効性を検証するため、多施設臨床研究(140人を予定)を今年6月より開始した。この研究をもとに、高血圧治療における生活習慣改善と行動変容のエビデンスを構築し、新たな高血圧治療として同アプリの実用化を目指す。

治験実施で薬事承認を目指す
院外・在宅でも正しい医療ガイダンスが受けられる「高血圧治療アプリ」は、これまで頻繁に受診しにくかった、働き盛りの人々や、遠隔地の人々にも、質の高いパーソナライズド(個別化)医療を提供することが可能になる。
また、主治医は同アプリの患者データを共有することができ、実診療に活かせると共に、受診頻度が少なくても、適切に血圧管理を行えるようになる。時系列データの蓄積によりアルゴリズムを改良することも可能で、患者の利用が増えるほど、その介入精度が高まる。
研究チームは、「高血圧治療アプリ」が保険診療の中で普及することで、高血圧の重症化予防や心血管疾患の抑制につながるとしている。薬事承認を目指した治験実施に向けて、データ蓄積とプログラム改良を進める予定だ。
デジタルテクノロジーを用いた新たな治療アプローチである同アプリの普及を拡大することで、高血圧に対する投薬量や受診頻度の継続的な低減につながり、将来的な医療費削減にも貢献できるとしている。

日本でいち早くアプリの臨床試験を開始
キュア・アップは、高度なソフトウェア技術と医学的エビデンスにもとづいた疾患治療用プログラム医療機器の研究開発から製造まで行うMedTechベンチャー。「アプリで病気を治療する」という新しい医療サービスを日本で初めて実現するために、「治療アプリ」の開発に取り組んでいる。
「治療アプリ」が目指すのは、臨床試験などにより治療効果を明らかにし、医療機器として承認を受けて実用化すること。同社は、日本でいち早く臨床試験を開始し、第1弾となる「ニコチン依存症治療用アプリ」が現在治験中であるほか、複数の疾病への開発も開始している。
また、日本で生み出したモデルをベースに「日本発のデジタルヘルスソリューション」として、順次グローバルにも展開していく予定としている。
自治医科大学キュア・アップ
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