ニュース

「よく噛んで食事をする」と食後の血糖上昇を抑えられる 「よく噛む」食事法は朝と夜で効果に差が

 北海道大学は、「よく噛んで食事をする」食事法が食後の血糖値にもたらす効果は、朝と夜で異なることを発見したと発表した。朝食で咀嚼を強化すると血糖値を下げるインスリンの初期分泌が促されるという。肥満や2型糖尿病といった食事スタイルを原因とする疾患での食事指導に応用できる成果だ。
咀嚼回数を増やすと血糖値の上昇を抑えられる
 北海道大学は、食後の血糖値は朝に40回咀嚼を行った条件でもっとも低くなり、食後30分のインスリン分泌量の上昇に関与することを発見したと発表した。

 研究は、同大学大学院教育学研究院の山仲勇二郎准教授と札幌国際大学スポーツ指導学科の大塚吉則教授らの研究グループによるもの。研究成果は「The Tohoku Journal of Experimental Medicine」に掲載された。

 よく噛むことで、満腹感が早期に得られ食事量が抑えられることや、食欲に関わるホルモン分泌に影響すること、食後のエネルギー消費量を増加させることが知られている。今回の研究では咀嚼運動の強化による血糖値の調節作用が1日の中で異なることをはじめて明らかにした。

 咀嚼には、摂食調節に関わるさまざまな健康効果があり、咀嚼運動の強化により、摂食量、食欲のコントロール、食後のエネルギー代謝量の増加、糖代謝能に影響することが報告されている。

 また、インスリンによる血糖値の調節作用には1日の中で異なり、朝に比べ夜間にはインスリンによる血糖値の低下作用が低下することが報告されている。

 しかし、咀嚼運動による糖代謝能の改善に時刻による違いがあるかについては不明だった。

 よく噛んで食べる人は、速く食べる人に比べ、2型糖尿病やメタボリックシンドロームを発症しにくいことは、京都大学や国立循環器病研究センターの研究でも明らかになっている。

 そこで研究グループは、咀嚼運動が食後の血糖値およびインスリン濃度に与える影響を、朝と夜で比較する実験を行い、咀嚼運動が糖代謝能に与える影響に概日リズムが存在するか否かを検証した。

関連情報
肥満予防に「ゆっくり食べる」ことが効果的 よく噛んで食べるための8つの対策
「口から食べる」ことが健康維持に役立つ よく噛むとホルモン分泌が増える
高齢者の歯の喪失 糖尿病や骨粗鬆症があるとリスクが増加
咀嚼の効果は朝と夕で異なる
 研究グループは、健康な成人男性9名を対象に実験を実施。被験者には、実験参加に先立ち規則正しい生活(23~0時就寝、7~8時起床)を1~2週間おくるように指示し、その後、(1)75gグルコース溶液を用いた経口糖負荷試験、(2)試験食(白米200g)を1口当たり10回咀嚼する試験、(3)試験食(白米200g)を1口当たり40回咀嚼する試験をそれぞれ実施した。

 各試験は、1週間の間隔をおいて実施し、咀嚼回数の違いを調べる実験(2)と(3)は、ランダムに実験順序を決定した。経口糖負荷試験、試験食の摂取実験は、1日2回(朝8時と夜20時)行った。

 血糖値、血漿インスリン濃度、血漿アミラーゼ活性、血漿GLP1濃度を測定し、咀嚼回数やタイミングによって、血糖値とインスリン値の上昇曲線下面積に変化が起きるかを調べた。
朝の咀嚼回数を増やすとインスリンの初期分泌能が上昇
 その結果、75g経口糖負荷試験を行った際の血糖値は、これまでに報告されているように、夜に高くなりやすいことが分かった。朝8時と夜20時では異なり、血糖値は75gグルコース溶液を摂取した60分後以降、夜の試験では朝の試験に比較して高い値となり、血漿インスリン濃度は朝の30分後の値が夜の試験時に比べて有意に増加していた。

 白米を1口あたり10回咀嚼する条件と40回咀嚼する条件で試験食を朝と夜に摂取させた4条件(朝10回、朝40回、夜10回、夜40回)間で血糖値と血漿インスリン濃度を比較したところ、朝に40回咀嚼した条件では他の3条件に比べ食後60分、90分および食後の総血糖値が有意に低い値となり、食後30分の血漿インスリン濃度が他の条件に比べて増加していた。インスリンインデックスも、朝40回咀嚼した条件では他の3条件に比べて有意に高い値を示していた。
「よく噛んで食事をする」時間帯を変えるという食事法
 研究グループはこれらの結果より、高炭水化物摂取後の糖代謝能は朝方の咀嚼運動の強化によって、インスリンの初期分泌能が上昇することで食後の血糖値を速やかに低下させると結論付けた。

 従来の肥満や2型糖尿病の栄養食事指導は、特定の栄養素を1日の中で栄養を摂取する量を調節することに重点がおかれているが、今回の研究は、1日の中で「よく噛んで食事をする」時間帯を変えるという新しい視点をもたらすものだ。

 肥満者や糖尿病予備軍、2型糖尿病患者では、インスリンの初期分泌が低下し、遅延することが知られている。朝食時の咀嚼運動の強化は、食後の糖代謝能を改善させる可能性がある。

 「よく噛んで食事をする」という日本の一般家庭でも古くから実践されてきた食習慣に新たな科学的知見を提供するものであり、肥満や2型糖尿病などの予防・改善を目的とした栄養食事指導への応用が期待される。

北海道大学大学院教育学研究院
Morning Mastication Enhances Postprandial Glucose Metabolism in Healthy Young Subjects(Tohoku Journal of Experimental Medicine 2019年11月23日)
[Terahata]
side_メルマガバナー

「健診・検診」に関するニュース

2024年04月25日
厚労省「地域・職域連携ポータルサイト」を開設
人生100年時代を迎え、保健事業の継続性は不可欠
2024年04月22日
【肺がん】進行した人は「健診やがん検診を受けていれば良かった」と後悔 早期発見できた人は生存率が高い
2024年04月18日
人口10万人あたりの「常勤保健師の配置状況」最多は島根県 「令和4年度地域保健・健康増進事業の報告」より
2024年04月18日
健康診査の受診者数が回復 前年比で約4,200人増加 「地域保健・健康増進事業の報告」より
2024年04月09日
子宮の日 もっと知ってほしい子宮頸がんワクチンのこと 予防啓発キャンペーンを展開
2024年04月08日
【新型コロナ】長引く後遺症が社会問題に 他の疾患が隠れている例も 岡山大学が調査
2024年03月18日
メタボリックシンドロームの新しい診断基準を提案 特定健診などの56万⼈のビッグデータを解析 新潟⼤学
2024年03月11日
肥満は日本人でも脳梗塞や脳出血のリスクを高める 脳出血は肥満とやせでの両方で増加 約9万人を調査
2024年03月05日
【横浜市】がん検診の充実などの対策を加速 高齢者だけでなく女性や若い人のがん対策も推進 自治体初の試みも
2024年02月26日
近くの「検体測定室」で糖尿病チェック PHRアプリでデータ連携 保健指導のフォローアップなどへの活用も
アルコールと保健指導
無料 メールマガジン 保健指導の最新情報を毎週配信
(木曜日・登録者11,000名)
登録者の内訳(職種)
  • 産業医 3%
  • 保健師 46%
  • 看護師 10%
  • 管理栄養士・栄養士 19%
  • その他 22%
登録はこちら

ページのトップへ戻る トップページへ ▶