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コロナ禍で妊娠を延期した女性の半数以上に強い孤独感 32%が心理的苦痛 危機時のメンタルヘルスケアが必要
2023年10月02日

コロナ禍の感染拡大により、妊娠の意思があった既婚女性の20%が妊娠を延期させており、そうした選択をした女性はウェルビーイングが低下しているという調査結果を、筑波大学が発表した。
コロナ禍に妊娠を延期した女性のうち、50%以上が中程度から重度の孤独感を、32%が重度の心理的苦痛を感じ、さらには29%が自殺念慮を抱いていることが示された。
「こうした女性のウェルビーイング悪化は、公衆衛生上の重要な問題と考えられます。将来的に起こりうるコロナ禍のような危機に備えて、危機時における孤独感、重度の⼼理的苦痛、⾃殺念慮の上昇を防ぐための、迅速な精神ケアを提供する仕組みを整えることが重要です」と、研究者は述べている。
コロナ禍で妊娠を延期した女性のウェルビーイングを調査
新型コロナの感染拡大前に妊娠の意思があった既婚女性の20%が、感染拡大により妊娠を延期させており、そうした選択とウェルビーイングの低下に関連があることが、筑波大学の調査で示された。 ウェルビーイングには「幸福」「健康」という意味があり、世界保健機関(WHO)によると、身体と精神だけでなく、社会的にも満たされた状態にあること。 新型コロナのパンデミックの期間に、多くの人が⽣活のあらゆる⾯で変化を経験しており、女性の妊娠延期の決定についても例外ではない。 妊娠に関連するウェルビーイングについての研究は、多くが不妊や高齢出産に着目しており、不妊はとりわけ女性のウェルビーイングを低下させる一方で、妊娠の成功はウェルビーイングの向上につながることが知られている。 これまでの研究で、不妊治療をしている⼥性で、若い頃に出産を遅らせた決断への後悔が、その後のウェルビーイングの低下と関連していることも明らかになっている。 コロナ禍が要因となって、妊娠を延期することを決めた女性でも、ウェルビーイングの低下が懸念される。 そこで研究グループは、コロナ禍での妊娠延期の決定と、⼥性のウェルビーイングとあいだに、どのような関連があるかに焦点をあて調査した。 関連情報妊娠を延期した女性のウェルビーイングは低下
その結果、既婚女性のうち、妊娠意向をもっていたが、コロナ禍に妊娠を延期したという女性は20%に上り、そうした女性は、ウェルビーイングが低下していることが明らかになった。 コロナ禍に妊娠を延期した女性のうち、50%以上が中程度から重度の孤独感を、32%が重度の心理的苦痛を感じ、さらには29%が自殺念慮を抱いていることが示された。 さらに、コロナ禍以後に孤独感が発生した女性の割合は28%、自殺念慮を抱いた女性は20%だった。 一方、妊娠を延期しなかった女性でも、33%が中程度から重度の孤独感を感じ、12%が重度の心理的苦痛を経験し、17%が自殺念慮をもっていたが、妊娠を延期した女性と比較すると、コロナ禍以降に孤独感が発生したのは半分未満、自殺念慮を抱いた割合は20%だった。
妊娠意向をもっていたが、コロナ禍に妊娠を延期したという女性は20%
うち50%以上が孤独感を、32%が心理的苦痛を感じ、29%が自殺念慮を抱いていることが明らかに
うち50%以上が孤独感を、32%が心理的苦痛を感じ、29%が自殺念慮を抱いていることが明らかに

出典:筑波大学、2023年
危機時に迅速な精神ケアを提供する仕組みが必要
コロナ禍に多くの国で女性の妊娠控えが発生し、日本でも妊娠数が5〜8%減少した。先進国の多くで、妊娠を延期した女性が38%~58%に上るという報告がある。 「このような妊娠延期の決定が、パンデミックに影響を受けたものであり、女性のウェルビーイングを悪化させるとするならば、これは公衆衛生上の重要な問題と考えらます」と、研究者は述べている。 「将来的に起こりうるコロナ禍のような危機に備えて、危機時における孤独感、重度の⼼理的苦痛、⾃殺念慮の上昇を防ぐための、迅速な精神ケアを提供する仕組みを整えることが重要と考えられます」としている。 研究は、筑波大学人文社会系の松島みどり准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Public Health」に掲載された。妊娠意向のある既婚女性768人を調査
不妊治療を受けた人々を対象としたこれまでの研究で、若い頃に出産を遅らせた決断に対する後悔が、女性のウェルビーイングの低下と関連することが示されているが、不妊治療施設での少数サンプルによる研究であり、一般人口を対象とした研究はこれまで行われていない。また、これまでの研究で使用されたウェルビーイングの指標は、生活満足度と後悔に限定されていた。 そこで研究グループは今回、大規模な全国オンライン調査のデータを用い、孤独感、重度の心理的苦痛、自殺念慮などをウェルビーイングの指標として、妊娠延期の決定がこれらの指標とどのように関連したのかを分析した。 対象となったのは、日本のコロナ禍での生活・健康・社会などの実態を調査している「JACSIS study」に参加した、妊娠意向があった既婚女性768人。全国を対象としたオンライン調査のデータのうち、2020年と2021年に実施された調査データを使用した。 調査では、コロナ禍やそれによるさまざまな社会環境の変化が要因で妊娠を延期したかを測定するために、「過去2ヵ月間、新型コロナウイルス感染症の影響で、妊娠の計画にもかかわらず妊娠をしないようにしたか」と尋ね、この回答が「はい」だった場合を「妊娠控えをした」と定義した。 ウェルビーイングを測定する指標には、「UCLA孤独感尺度」「孤独感の五段階自己評価」「ケスラー心理的苦痛尺度」「コロナ禍で生じた自殺念慮の有無」を用いた。また、共変量として、社会的孤立、新型コロナウイルス感染症関連の指標、社会経済指標、および回答者の基本属性も含めた。 ポアソン分布を仮定した⼀般化推定⽅程式(GEE)を適用した結果、妊娠の延期は、延期していない場合に比べて、中程度から重度の孤独感はPR1.10、自殺念慮はPR1.04となり、重度の心理的苦痛の発生割合比はもっとも高くPR2.06となった。 さらに、コロナ禍以降に発生した孤独感(PR1.55)、自殺念慮(PR2.55)も、妊娠延期の決定と強く関連していた。調査年別の分析からは、これらの関連が2020年よりも2021年の方が強かったことが分かった。 筑波大学人文社会系Married women's decision to delay childbearing, and loneliness, severe psychological distress, and suicidal ideation under crisis: online survey data analysis from 2020 to 2021 (BMC Public Health 2023年8⽉28⽇)
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