教育歴による健康格差は男女とも約1.5倍
国立がん研究センターが死因別死亡率を解析【国内初】
生活習慣や検診受診など健康行動が影響
研究グループは「教育歴が死亡率に直接影響しているわけではなく、喫煙率の高さ、塩分過剰摂取などの生活習慣、検診受診などの健康行動に影響したリスク要因が、社会経済状態(教育歴など)によって異なることが死亡率の差につながっていると推察されます」としている。つまり教育歴だけでなく、個人のヘルスリテラシーや所得などの経済因子を介して死亡率に影響を与えているようだ。
厚生労働省の「国民生活基礎調査」では、教育歴が短い人は喫煙率が高く、がん検診の受診率も低いことがわかっている。また「国民健康・栄養調査」では、所得が低い人ほど栄養が偏り、バランスのよい食生活ができていない実態も報告されている。
教育歴が長いほど死亡率が高い疾患も
一方、女性の乳がんは教育歴が長いほど死亡率が高いという結果だった。これについては「妊娠・出産歴が少ないことがリスク要因とされていることから、教育歴が長いほど妊娠・出産歴が少なくなるという傾向を反映している可能性がある」と考察している。
国民皆保険などで欧米より健康格差は小さい
研究グループは「これらの格差指標の大きさは、欧米など諸外国からの報告や文献をもとに比較し考察すると、日本人の健康格差(教育歴ごとの死亡率の差)が小さい可能性を示唆するとものと考えられます」と述べている。
日本の死亡率の健康格差が小さい背景として、研究グループは「安全な水や食糧など衛生水準の高さ、社会・経済的な安定性に加えて、国民皆保険制度による医療・保健サービスへのアクセス充実が寄与している可能性が考えられます」と話す。
研究グループは今回の研究結果と今後の展望について、「諸外国では健康格差のモニタリングが政府統計により体系的に行われており、国際共同研究や格差縮小のための取り組みが実施されています。諸外国の事例を参考に、より代表性の高いデータを用いた健康格差のモニタリングと、疾病負荷が大きい集団を含めた全ての国民に届くよう、禁煙や生活習慣の改善・対策の立案が求められます」と、健康格差のモニタリングの必要性を訴えた。
さらに「教育歴が死亡率に関わる生活習慣や健康行動などを反映する指標の一つとなることが考えられる」とし、今後はデータリンケージの精度を高めるとともに、健康格差縮小のポイントとなる指標を抽出し、格差の縮小につながる研究や提言を行っていく考えも示した。
なお、研究成果は、2024年3月28日に国際英文ジャーナル「International Journal of Epidemiology」で公開された。
参考資料
国勢調査と人口動態統計の個票データリンケージにより日本人の教育歴ごとの死因別死亡率を初めて推計(国立がん研究センター)
Hirokazu T, et al: Educational inequalities in all-cause and cause-specific mortality in Japan: national census-linked mortality data for 2010-15. International Journal of Epidemiology, 2024.
わが国の健康の社会格差の現状理解とその改善に向けて(日本学術会議)
国民生活基礎調査(厚生労働省)
国民健康・栄養調査(厚生労働省)


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