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【新型コロナ】保健師がコロナ禍の拡大を食い止めている 保健師の活動が活発な地域では罹患率は減少
2022年05月23日
保健所の保健師の活動が目立つ地域では、新型コロナの罹患率が減少し、コロナ禍を食い止められていることが、全国調査で明らかになった。
「保健師の活動が活発な地域では、健康に関心をもつ人が増え、保健師を通じて健康情報を得る機会が多い」と、研究者は指摘している。
コロナ禍で保健師の活動が必要であることを証明
人口あたりの保健師数が多い都道府県は、新型コロナにかかる人の割合が低いことが、奈良県立医科大学の研究で明らかになった。 研究は、奈良県立医科大学県民健康増進支援センターの研究グループが、全国の都道府県別に、人口あたりの保健師数と新型コロナの新規感染者の割合(罹患率)について、同時点の統計資料にもとづいて分析(横断面分析)したもの。 研究グループは、オープンデータを用いて、都道府県単位の生態学的研究を行い、都道府県レベルの人口あたりの保健師数と新型コロナの罹患率との横断的関連を検討した。 研究では、都道府県別人口あたりの保健師数に応じて、47都道府県を五分位に分け、変異型別の層化分析を行った。地域特性の影響を考慮したモデルでは、すべての変異型で、保健師数がもっとも多い第5五分位群を基準とした場合の罹患率比が、第1五分位群で有意に1より高いことから、人口あたりの保健師数が少ない都道府県で、新型コロナの罹患率が高かったことが示された。 変異型別には、野生型とデルタ型で、人口あたりの保健師数が少なくなるほど新型コロナの罹患率が高くなる量反応関係がみられた。 これまでに、コロナ禍で保健師の活動が必要であることを証明した研究はなく、今回の研究では、都道府県の保健師の数を増やすことが、日本での新型コロナの蔓延を防ぐ手段として有効であることがはじめて示された。保健師数が多い地域では健康診断やがん検診の受診者の割合が高い
これまでの日本の研究で、人口あたりの保健師数が多いことは、健康診断やがん検診の受診者の割合が高いことと有意に関連することが報告されている。 また、長野県が健康長寿を実現した要因には、保健師の活動により、さまざまな健康問題に対する予防意識を地域に浸透させたことが挙げられている。 さらに、保健師の活動は、新型コロナ対策でも、最前線で重要な役割をはたしている。保健所での感染者や濃厚接触者への対応、職場や市町村でのワクチン接種など、コロナ禍での保健師の役割は大きい。 しかし、このような保健師の活動が、新型コロナ罹患率とどのように関連しているかを示したの科学的エビデンスは限られている。 そこで研究グループは、オープンデータを用いて、都道府県別の人口あたりの保健師数と新型コロナの罹患率との関連を、生態学的研究として検討した。 研究では、先行研究により新型コロナの転帰に関連すると指摘されている地域の特性や、変異型の影響を考慮した分析を行った。47都道府県の保健師数と新型コロナ罹患率を分析
分析では、変数を新型コロナの罹患率、すなわち都道府県別変異型別人口10万人あたりの累積新規感染者数として、説明変数は都道府県別人口10万人あたりの保健師数とした。 新型コロナの変異型は感染時期によって特定し、2020年1月16日から第3波(2021年2月末)までは野生型、第4波(2021年3月~5月末)まではアルファ型、第5波(2021年6月~9月末)まではデルタ型とし、変異型別の層化分析を加えた。 新型コロナの罹患率比および95%信頼区間を推定には、一般化推定方程式のポアソン回帰モデルを用いた。 都道府県別人口あたりの保健師数に応じて、47都道府県を五分位に分け、保健師数がもっとも多い第5五分位群を基準とした場合の、変異型別新型コロナ罹患率比を算出した。 高齢者割合と人口密度は、ともに新型コロナの罹患率に影響を与える重要な地域特性だが、高齢者割合と人口密度との相関が高く、同時にモデルに投入することができないため、先に高齢者割合、第3次産業労働者の割合、住宅の1人あたり居住室の広さ、年平均気温を調整したモデルを、次に高齢者割合を対数変換した人口密度に置き換えた場合のモデルを構築した。保健師の活動が住民の健康意識の高まりとコロナ対策を促進している
その結果、地域特性の影響を考慮したモデルでは、全感染者を含めたすべての変異型で、第5五分位群を基準とした罹患率比が、第1五分位群で有意に1より高いことから、人口あたりの保健師数が少ない都道府県で、新型コロナの罹患率が高かったことが示された。 変異型別でみると、野生型とデルタ型で、人口あたりの保健師数が少なくなるほど、新型コロナの罹患率が高くなる、量反応関係がみられた。 他のモデル(モデル1は社会経済的要因を調整、モデル2は医療資源を調整、モデル3は健康行動を調整)でも同様の結果が示された。とくに、モデル1とモデル2では、アルファ型を含めたすべての変異型で有意な量反応関係がみられた。 研究グループは、新型コロナの罹患率と保健師数との関連のメカニズムとして、次のような2つの可能性が考えられるとしている。 (1) 保健所に勤務する保健師の活動が、新型コロナ罹患率を減少させた
新型コロナ対応では、主に保健師が積極的疫学調査を行っている。積極的な疫学調査が、感染クラスターの早期発見・早期対応を可能にし、感染拡大の防止に寄与した可能性がある。
(2) 保健師の活動の活発な地域では、平時からの保健事業により、健康に関心をもつ人の増加をはかっていることや、保健師を通じた健康情報を得る機会が多い
保健師の多い都道府県に住む住民は、マスク着用、予防接種、外出自粛などの新型コロナの感染予防行動を実践する傾向があり、新型コロナの感染拡大が予防されたと考えられる。
地域特性を調整した変異型別COVID-19罹患率と人口当たりの保健師数との関連
他のモデルにおける変異型別COVID-19罹患率と人口当たりの保健師数との関連
モデル1は、社会経済的要因(可処分所得、ジニ係数、完全失業率、被保護者割合)で調整。
モデル2は、医療資源(人口当たりの医師数、看護師数、公務員数、急性期病院病床数)で調整。
モデル3は、健康行動(健診受診者割合、ボランティア活動参加者割合、喫煙者割合、肥満者割合)で調整。
モデル2は、医療資源(人口当たりの医師数、看護師数、公務員数、急性期病院病床数)で調整。
モデル3は、健康行動(健診受診者割合、ボランティア活動参加者割合、喫煙者割合、肥満者割合)で調整。
出典:奈良県立医科大学、2022年
新型コロナの蔓延を防ぐために保健師が必要
研究では、保健師の数を増やすことは、日本での新型コロナの感染拡大を封じ込めるのに役立つ可能性があることが示唆された。 一方で、研究は生態学的研究のために、(3)生態学的誤謬の可能性が残る、(4)横断研究のために因果関係を示すことができない、感染者数が保健所機能を上回ったオミクロン株の状況を反映していない、といった限界もある。 「今後さらに詳細な研究が必要ですが、これまでにコロナ禍で保健師の活動が必要であることを証明した研究はなく、今回の研究では、都道府県の保健師の数を増やすことが、日本での新型コロナの蔓延を防ぐ手段として有効であることがはじめて示されました」と、研究グループでは述べている。 奈良県立医科大学 県民健康増進支援センターNumber of public health nurses and COVID-19 incidence rate by variant type: An ecological study of 47 prefectures in Japan (Environmental Health and Preventive Medicine 2022年5月3日)
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