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【新型コロナ】腸内環境が新型コロナにも影響 腸内細菌と代謝物質で重症化しやすさが分かる
2022年10月18日
新型コロナウイルスの感染や新型コロナにともなう合併症のリスクに違いに、腸内環境の個人差が影響している可能性があるという研究が発表された。
研究で同定した腸内細菌や腸内代謝物質を高い割合でもっている人は、新型コロナの合併症を発症しやすく、とくに肺合併症リスクが高いことが、コホート研究で明らかになった。
腸内環境は、ワクチンの効果や副反応の個人差にまで影響している可能性も考えられるという。
研究は、東京医科大学、国立国際医療研究センター、理化学研究所、江崎グリコによるもの。研究グループは、新型コロナやそれにともなう臓器合併症に特徴的な腸内細菌、腸内代謝物質、サイトカインの変化を同定した。
1人ひとり違う腸内環境が新型コロナのリスクに関連している可能性
同じ日本人でも、新型コロナウイルスの感受性や新型コロナにともなう合併症のリスクに違いがあるのは、腸内環境の個人差の影響によるものである可能性があるという研究が発表された。 1人ひとり違う腸内細菌の割合や代謝物質の濃度が、新型コロナの合併症の発症リスクに関連している可能性がある。 研究は、東京医科大学、国立国際医療研究センター、理化学研究所、江崎グリコによるもの。 免疫応答は、外から侵入してきたウイルスなどから身を守るために、生体内で起こる反応。研究では、腸内細菌や、腸内細菌がつくる腸内代謝物質は、新型コロナウイルスに対する免疫応答に影響することが明らかになった。 新型コロナは、腸内細菌がつくる短鎖脂肪酸、糖代謝物質、神経伝達物質とも関連しており、特定の細菌や代謝物質を介した、ユニークな免疫応答がみられるという。 実際に、新型コロナを発症して肺合併症を起こしたり、重症化した患者で、細菌や代謝物質を介した免疫応答は顕著にみられた。 関連情報有用な腸内菌を増やすことが新型コロナ治療で補助的な役割
腸内フローラのバランスを改善し、宿主の健康に有益に働く善玉菌である「プロバイオティクス」、腸内細菌の餌になる食物繊維やオリゴ糖などの「プレバイオティクス」などの、有用な腸内菌を制御したり増強する治療が、免疫応答を通じて、新型コロナ治療で補助的な役割を果たす可能性がある。 研究グループは、新型コロナや重症者での膨大かつ特異的な腸内細菌の変動を、腸内細菌種をバイオマーカーとして利用し、重症化リスクの高い患者をみつけだす方法の開発も視野に入れている。出典:東京医科大学、2022年
新型コロナの重症化の個人差に腸内環境による免疫応答の違いが影響
新型コロナの8割は軽症のまま治癒するが、2割は重症肺炎となる。重症化は、宿主の過剰な免疫応答「サイトカインストーム」により生じると考えられている。 「サイトカイン」は、ヒトの体内で、刺激を受け活性化した細胞(主に免疫系細胞)から分泌されるタンパク質で、その受容体を発現する細胞や近くの細胞に作用し、細胞の増殖や分化、代謝など、さまざまな重要な働きをしている。 また、「ケモカイン」はサイトカインの一種で、免疫をつかさどる白血球の遊走を誘導し、外からの細菌やウイルスなど侵入などに対する免疫応答を活性化し、臓器局所での炎症を引き起こす。 感染症などにより、大量に産生された炎症性サイトカインが血液中に放出されると、過剰な炎症反応がひきおこされ、臓器に致命的なさまざまな傷害が生じることがある。このような病態が「サイトカインストーム」と呼ばれ、新型コロナによる呼吸不全の重要なメカニズムのひとつと考えられている。 一方、ヒトの腸内には1,000種類以上にもおよぶ腸内細菌が生息しており、菌が作り出す、あるいは分解する代謝物質とともに腸内環境がつくられている。 この腸内細菌による腸内環境は、免疫系を適切にコントロールし、健康を維持する役割をになっていると考えられている。腸内環境とサイトカイン変動との密接な関係を解明
出典:東京医科大学、2022年
腸内細菌叢の変動は個人間の多様性が高い
その結果、新型コロナ患者やその合併症を有する患者では、ユニークな腸内環境の変化がみられ、過剰な免疫応答と関わっていることが明らかになった。同じ日本人でも新型コロナウイルスの感受性や、新型コロナにともなう合併症リスクの違いがあるのは、腸内環境の個人差が寄与している可能性があるという。 新型コロナで変動する菌種は、日本と香港で類似しているが、米国とは異質であることも判明した。腸内環境の個人差は、ワクチンの効果や副反応の個人差にも影響する可能性があり、今後の研究が期待されるとしている。 新型コロナでのヒト腸内細菌研究には、いくつかの課題があった。1つは、新型コロナの病態と腸内細菌叢と関係を調べるために、感染直後または感染にともなう病態がおきる前に、糞便や血液を調べることが重要となるが、新型コロナで入院した直後の便や血液を100例以上の対象者で調べた研究はなかった。 腸内細菌叢の変動は、個人間の多様性が高いため、症例数の担保が必要となる。また、新型コロナ群と対照群を比較する際に、患者背景のバランスをとる必要もある。 さらに、新型コロナ患者でみられた腸内細菌変動は、新型コロナに特異的であるかについては不明だった。さまざまな病気で変動する細菌と新型コロナで変動する細菌を比較検証することが重要となる。 そこで、研究グループは今回の研究で、新型コロナで入院した日本人患者と、年齢、性別、患者背景因子を1:1でマッチした非新型コロナコントロール症例、計224例で、新型コロナ入院直後の特徴的な腸内環境と、それにともなう免疫応答を調べた。 次に、肺炎を主体とする重症や肺外合併症に特徴的な腸内環境と免疫応答を調べた。さらに、新型コロナで変動する腸内細菌と他の疾患で変動する腸内細菌との一致、日本と香港やアメリカの新型コロナ関連菌種との一致を検証した。短鎖脂肪酸が新型コロナの合併症の治療や予防の鍵に
研究グループは今回の研究で、新型コロナに特徴的な腸内細菌の変化、それに対応する代謝物質変化、さらにその両者の変化に対応するサイトカイン変動パターンを複数発見。つまり、「菌種-代謝物質-サイトカイン」の相互関係が新型コロナの病態に密接に関係していることを見出した。 「短鎖脂肪酸」は、腸内細菌が産生する、酪酸、プロピオン酸、酢酸などの有機酸のこと。ヒトの免疫の恒常性を保つ作用(抗炎症作用)をもつほか、腸上皮細胞のエネルギー源となり、さらに腸管粘膜で抗微生物効果を示すなど、優れた生理効果を発揮する。 新型コロナ患者だけでなく、がん患者や炎症性腸疾患患者でも、この短鎖脂肪酸産生と関与する菌群が共通して減少していることが分かっている。 研究では、新型コロナで減少した短鎖脂肪酸産生菌と腸内の糖代謝物質、神経伝達物質のいずれも、新型コロナで上昇した炎症性サイトカインと負の相関が示され、新型コロナで減少したサイトカインと正の相関が示された。 この結果は、短鎖脂肪酸を産生する腸内菌が、糖代謝物質、神経伝達物質が、新型コロナでの過剰な免疫応答の潜在的な制御因子として機能していることを示唆している。 短鎖脂肪酸が新型コロナやその合併症の病態に深く関わっていることが分かり、この物質を増やすことで新型コロナの合併症の治療または予防になる可能性が示唆された。「腸内細菌-腸内代謝物質-サイトカイン」の関係は、他の免疫疾患や感染性疾患の解明にも役立つ
「新型コロナや重症者での膨大かつ特異的な腸内細菌種の変動は、腸内細菌種をバイオマーカーとして利用し、ハイリスク患者の層別化ができる可能性があります。また、プロバイオティクス、プレバイオティクス、バクテリオファージなど、特定の細菌を制御または増強する治療法は、免疫応答を通じて新型コロナ治療に補助的な役割を果たす可能性があります」と、研究グループでは述べている。 「今回、新型コロナ患者やその合併症を有する患者ではユニークな腸内環境の変化がみられ、過剰な免疫応答と関わっていることが分かりました。同じ日本人でも、新型コロナウイルスの感受性や新型コロナにともなう合併症リスクの違いがあるのは、この腸内環境の個人差が寄与しているかもしれません」。 「腸内環境の個人差は、ワクチンの効果や副反応の個人差にも影響する可能性があり、今後の研究が期待されます。今回我々が明らかにした腸内細菌-腸内代謝物質-サイトカインの広範な関係は、新型コロナだけでなく、他の免疫疾患や感染性疾患の病因を理解するための重要なカタログとなりえます」としている。 東京医科大学 消化器内視鏡学分野国立研究開発法人 国立国際医療研究センター (NCGM)
国立研究開発法人 理化学研究所
江崎グリコ
Human gut microbiota and its metabolites impact immune responses in COVID-19 and its complications (Gastroenterology 2022年9月22日)
Japanese 4D (Disease Drug Diet Daily life) マイクロバイオームコホートデータ
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