ニュース
【新型コロナ】感染拡大で価値観を揺るがされ抑うつや不安に 感染対策に協力できているという達成感が救いに
2021年11月30日

新型コロナの感染拡大により、自分への自信や他者への信頼についての価値観が揺るがされた人が多いことが、東北大学加齢医学研究所などの調査で明らかになった。
その揺らぎは、抑うつや不安の強さと関連していたことも分かった。感染拡大をくいとめるための対策を行うと同時に、多くの人が経験している心の変化や心理についても対策する必要があることが示された。
新型コロナの拡大は「自分」や「世界」の見方を変えた
新型コロナの感染拡大は、多くの人の日常を一変させた。パンデミックが始まったことで、いつになれば「普通」の生活に戻れるのか分からず、先行きを予測することも、環境をコントロールすることも難しい状況になったといえる。 予測や制御の困難な状況では、自分への自信や他者への信頼といった価値観や考え方を示す「中核的信念」が揺るがされることが多い。そうした価値観や考え方を作り直し、柔軟な対応をする必要が出てくる。 自然災害やテロ、重篤な病など、将来の予測や展開のコントロールが困難な状況では、人は自分や他者、世界についての根本的な考え方を変えざるをえなくなる。これが、中核的信念の揺らぎだ。
災害・病気・社会の変化など、想定外の事態におちいると、「中核的信念」は揺るがされる

出典:東北大学加齢医学研究所、2021年
東北大学加齢医学研究所は、30~79歳の日本人1,196人を対象に2020年7月にWeb調査を行い、新型コロナの感染拡大が人々の中核的信念の揺らぎを引き起こしたこと、その揺らぎが大きいほど抑うつや不安感も大きいことを明らかにした。
研究は、東北大学加齢医学研究所スマート・エイジング学際重点研究センターの松平泉助教、瀧靖之教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Humanities & Social Science Communications」に掲載された。
収入の減少やストレスが心理的苦痛に影響
調査では、新型コロナの感染拡大による中核的信念の揺らぎの程度について尋ねたほか、子供の休校の有無、感染拡大にともなう収入の変化、1回目の緊急事態宣言発令中に自分自身が感染対策に協力できていたと感じる程度(協力達成感)、感染対策への協力を負担に感じた程度(負担感)、感染拡大そのものに感じたストレス、心理的苦痛(抑うつと不安)などについても調査した。 その結果、感染対策への負担感がある人ほど、中核的信念の揺らぎを経験している、つまり自分への自信や他者への信頼が揺らいでいることが分かった。さらに、感染拡大にともなう収入の減少、感じているストレスは、中核的信念の揺らぎと心理的苦痛の大きさに大きく関わっていることが明らかになった。 新型コロナの感染拡大により中核的信念が大きく揺らいだ人ほど、心理的苦痛を強く感じていることも確認された。一方で、感染対策に協力できているという達成感は、中核的信念の揺らぎの改善に影響していることも分かった。
感染対策への負担感・収入の減少・ストレスなどが中核的信念の揺らぎと心理的苦痛に影響する

出典:東北大学加齢医学研究所、2021年
感染対策に協力できているという達成感は、価値観の揺らぎや心理的苦痛を改善する?
とくに欧米諸国のようなロックダウンが行われない日本では、感染対策にどのくらい真剣に取り組むかは、個々人に委ねられているといえる。このような社会で、新型コロナの感染拡大が人々の中核的信念に影響を与えたのか、またその影響が人々の精神的健康にどのように関与したのかが、研究ではじめて明らかになった。 「この結果から、新型コロナの感染拡大が人々に生き方を問い直させる事態であったことが示唆されます。感染対策への負担感や協力達成感が中核的信念の揺らぎに寄与したことは、関連する国外の研究ではみられなかった日本人独自の結果です」と、研究グループは述べている。 適切な感染対策の徹底は命を守るために必須であり、1人ひとりの自発的な対策行動が重要であることはいうまでもない。ただし、それによる社会と暮らしの変化が人間の心理にどのような影響をもたらすかを、同じ時代を生きる人同士で敏感に理解することが、感染症との戦いでは必要だと、研究者は指摘している。 「自分への自信や他者への信頼についての価値観は、1度目の緊急事態宣言発令中に感染対策に協力できていたと思う程度、協力を負担に感じていた程度、感染拡大そのものに感じたストレス、それにともなう収入の減少などの影響を受けます。感染症との戦いで、人の心理に生じる変化を考慮することは重要です」としている。 東北大学加齢医学研究所東北大学加齢医学研究所スマート・エイジング学際重点研究センター
Core belief disruption amid the COVID-19 pandemic in Japanese adults(Humanities & Social Science Communications 2021年11月23日)
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。©2009 - 2023 SOSHINSHA All Rights Reserved.


「新型コロナ」に関するニュース
- 2023年07月18日
- 【新型コロナ】コロナ禍で5歳の子供に4ヵ月超の発達の遅れ 子供の健康な発達のために何が必要?
- 2023年07月13日
- 新型コロナ後遺症について「企業向けリーフレット」を発行 支援の流れや職場における配慮事例を掲載(東京都)
- 2023年07月10日
- 【新型コロナ】市民のAED使用による除細動が減少 コロナ禍でも救命活動に協⼒を「あなたの手で命を救える」
- 2023年06月26日
- 【新型コロナ】乳幼児用ワクチンの副反応を調査 成人に比べ副反応は少なく発熱の頻度も低い
- 2023年05月29日
- 【新型コロナ】内臓脂肪を減らして肥満を解消すると重症化リスクが低下 内臓脂肪型肥満は「かくれ炎症」状態?
- 2023年05月17日
- 「ヨガ」で運動不足を解消 高齢者のフレイル予防にも効果 メンタル面も改善 ポストコロナ時代の変化に適応
- 2023年05月15日
- 【新型コロナ】肥満やメタボが増加しがん検診の受診率も低下 「健康意識は高まった」との指摘も
- 2023年05月08日
- コロナ禍で「生活が悪くなった」人が4割以上 孤独・孤立の全国調査を実施 どんな人が孤独を感じているか 内閣官房
- 2023年04月25日
- 2022年「保健師の活動基盤に関する基礎調査」結果公表「業務の複雑・困難化」「連携体制の構築・強化」が取り組み課題
- 2023年04月13日
- コロナ禍1~2年目の日本人を調査 社会的孤立は改善傾向も孤独感は増悪 SNSが必ずしも孤独を回避できるわけではない