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【新型コロナ】コロナ禍で急性心筋梗塞の治療開始が遅れる 重症合併症の増加につながった可能性 コロナ禍でも医療の質の維持を
2021年02月24日

国立循環器病研究センター(国循)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大により、2020年4月に発令された最初の「緊急事態宣言」以後に、同センターに入院した急性心筋梗塞患者(ST上昇型)が、心筋梗塞発症後から搬送もしくは受診までにかかる時間が、緊急事態宣言以前の患者と比較して遅くなっていること、心破裂、心室中隔穿孔、乳頭筋断裂といった重症合併症の割合が増加していることを報告した。
急性心筋梗塞の治療ではわずかな時間も無駄にできない
心臓が全身に血液を送るためのポンプとして収縮を繰り返すには、心筋を養っている冠動脈の血流が不可欠だ。動脈硬化などの原因により冠動脈の血流が不足すると心筋が壊死するのが心筋梗塞。心筋梗塞は心臓のポンプとしての機能が損なわれ、心不全、致死性不整脈などを合併し、ときに突然死を来す疾患だ。
とくにST上昇型心筋梗塞は、冠動脈が完全閉塞しており、カテーテル治療により冠動脈の血流を回復させる再灌流療法が患者の予後を改善することが証明されている。冠動脈の閉塞している時間が長ければそれだけ心筋壊死が進行し、心筋壁が貫壁性に壊死し、心臓が破れる致死的合併症のリスクが高まる。これには心自由壁破裂、心切迫破裂、心室中隔穿孔、乳頭筋断裂があり、機械的合併症と呼ばれている。
研究グループは、同センター心血管集中治療科、冠疾患科に入院した症例データから、前向き研究である心筋梗塞レジストリを構築している。今回、緊急事態宣言発令をCOVID-19拡大の深刻化のタイミングと捉え、発令の前後での心筋梗塞患者の発症から同院受診までの時間、有効な血行再建の施行割合、機械的合併症の割合の変化を検証するために研究を実施した。
研究は、国立循環器病研究センターの北原慧循環器病専門修練医、藤野雅史冠疾患科医師、藤田知之心臓血管外科部門長、野口暉夫副院長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Open Heart」にオンライン掲載された。
コロナ禍で心筋梗塞の治療を開始するのが遅れた
2018年1月1日~2020年8月14日に同院に入院したST上昇型心筋梗塞の患者422人のデータを解析。緊急事態宣言が発令された2020年4月7日より以前に入院したのは359人、宣言以後に入院したのは63人だった。また、PCR検査の体制が整ったあとに入院した56人でPCR検査を行ったところ、すべて陰性だった。
解析した結果、心筋梗塞の発症から同院到着までの時間が、宣言以前で2.4時間(中央値)、宣言以後で4.1時間となっており、統計学的に遅れていることが判明した。カテーテル治療による恩恵は発症後24時間以降では失われると考えられているが、発症後24時間以上経過した来院者の比率は宣言以前で51人(14.2%)、宣言以後で16人(25.4%)だった。
さらに、冠動脈の血行再建方法の緊急カテーテル治療(Primary PCI)は宣言以前で296人(82.5%)、宣言以後で43人(68.3%)に行われており、宣言以後でカテーテルによる緊急治療率が低下していた。
続いて、緊急事態宣言の前後で、機械的合併症の割合を比較。その結果、宣言以前で13人(3.6%)、宣言以後で9名(14.3%)となっており、統計学的に増加していた。
入院期間中に亡くなった患者は、宣言以前22名(6.2%)、宣言以後4名(6.4%)と違いはなかった。

出典:国立循環器病研究センター、2021年
コロナ禍でも医療の質の維持が望まれている
今回の研究結果により、新型コロナウイルス感染症の拡大後に、急性心筋梗塞患者の発症から受診までの時間が長くなり、重症合併症の割合の増加につながった可能性が考えられる。
受診が遅れることで、緊急カテーテル治療の適応にならない患者の割合が増え、重症合併症の増加にもつながった可能性も示唆されるという。受診遅延の要因については、今後明らかにしていくことが求められる。
「新型コロナウイルス感染症の流行下においても医療の質の維持が望まれており、緊急事態宣言中であっても、重大な疾患が示唆される症状の出現時には適切な医療アクセスを行うよう、引き続き行政や学会とともに、市民への啓蒙に取り組んでいきたいと考えています」と、研究グループは述べている。
国立循環器病研究センターThe COVID-19 pandemic is associated with mechanical complications in patients with ST-elevation myocardial infarction(Open Heart 2021年2月6日)
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