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【新型コロナ】コロナ禍でうつ病が増加 自然のもつメンタルヘルス改善の効果 「グリーンインフラ」に期待
2021年10月19日

10月10日は「世界メンタルヘルスデー」だった。心の健康を守る取り組みの必要性について、世界中で啓発活動が展開された。
新型コロナの拡大を防ぐためのロックダウンや外出制限は、多くの人にとってストレスになった。心の健康が脅かされ、うつ病・うつ状態になってしまう人は増えている。
一方、公園や緑地で森や川などの自然とふれあうことで、不安や気分の落ち込みが軽減されることは、多くの人が経験している。
新型コロナの拡大が引き起こした危機など、社会でのさまざまな課題解決に、自然環境がもつ力を活用しようという「緑のインフラストラクチャー(グリーンインフラ)」があらためて注目されている。
コロナ禍のストレスでうつ病が増えている
新型コロナの拡大を防ぐためのロックダウンや外出制限は、多くの人の心の健康に多大な影響をもたらした。
経済協力開発機構(OECD)の調査によると、多くの先進国で新型コロナ拡大の前後で、うつ病・うつ状態の人の割合が2~3倍に増えた。日本でも、うつの人の割合は、2013年の7.9%から、2020年の17.3%と2倍以上に増加しているという。
新型コロナ以前からも、世界の2人に1人が一生の間に精神的不調を経験し、5人に1人はなんらかの精神疾患を抱えて暮らしていると推定されていた。精神的な不調は、とくに若い世代や経済的に不安定な人のあいだで深刻化している。
精神的な不調や精神疾患にともなう経済損失は、GDPの4.2%以上に相当し、うち3分の1以上は雇用率の低下や生産性の低下によるものだという。OECDは「そうした損失は、各国政府が適切な医療ケアを行い、雇用対策の充実をはかることで多くは回避できます」と述べている。
コロナ禍のストレスに自然とのふれあいで対策
新型コロナの拡大により引き起こされた危機など、社会でのさまざまな課題解決に、自然環境がもつ機能を活用しようという「緑のインフラストラクチャー(グリーンインフラ)」があらためて注目されている。
新型コロナによるストレスであれ、その他の現代社会のストレスによるものであれ、こうしたメンタル不調は自然とふれあうことでやわらげられる可能性がある。
自然のなかに分け入り、緑に囲まれた環境で新鮮な空気を吸い込む──。こうした体験が間接的に私たちの精神衛生に良い効果をもたらすことは想像に難くない。
モスクワのルムンバ大学などが、2020年5月~7月にパース(オーストラリア)とモスクワ(ロシア)で実施したWebアンケート調査によると、新型コロナの拡大の影響で、自然とのふれあいが制限されていたと感じている住民が過半数を超えた。
パースの住民の59%、モスクワの住民の57%が都市の自然空間をあまり頻繁に訪れなくなったと回答した。また、都市の特定の地域の住民は自然へのアクセスが制限されたために、精神的および身体的な健康と幸福に不調を感じている割合が高かった。
一方、両都市の60%以上の住民が、自然とのふれあいが心身の健康にとって重要と考えていることも分かった。とくに大切にしていることは、「新鮮な空気」(パース83%、モスクワ52%)、「自然との一体感」(パース90%、モスクワ71%)、「風光明媚な美しさ」(パース90%、モスクワ71%)などだった。
緑のインフラストラクチャーを活用
「新型コロナのために、世界中の数百万人もの人々が都市での自然へのアクセスが制限されました。この異常な状況で、都市の自然は人間の幸福に貢献するもので、人間と自然の関係を形成するうえで重要な役割を果たすことが、あらためて示されました」と、ルムンバ大学の准教授でヘルムホルツセンター環境研究センターの主任研究員であるダイアナ ドゥシコワ氏は述べている。
「緑と青の公共空間は、快適な環境をもたらすだけでなく、緊急時や緊急後の心身の健康を回復する上でも重要な役割を果たします」。
「新型コロナによって引き起こされた世界的な危機を乗り越え、市民の幸福と健康を効果的に維持できるよう、緑のインフラストラクチャーの考えにもとづき、景観と都市空間の設計ではバランスのとれた戦略を開発することが必要です」と指摘している。
生物の多様性は人間の健康や幸福も高める

公園、庭園、川沿いなどの緑地が幸福度指数を上昇
都市の発展にあわせて緑地を整備することが住民の幸福につながることが、韓国先端科学技術研究所(KAIST)の研究でも明らかになっている。
公園、庭園、川沿いなどの都市の緑地は、美的な喜びを提供するだけでなく、身体活動やソーシャルサポート(周りの人々から得られる支援)を促すことで、住民の健康にプラスの影響をもたらすという。
同研究所コンピューティング学部のミヨン チャ教授らは、衛星画像による60ヵ国の90ヵ所の緑地のビッグデータを解析し、都市の緑地が住民の幸福にどのように影響するかを調べた。
研究グループは、欧州宇宙機関(ESA)が運用している地球観測衛星センチネル-2によって収集されたデータを使用し、都市の緑地の面積を定量化し、2018年に国連が報告した世界幸福度報告と国別GDPのデータと照合した。
その結果、すべての都市で、住民の幸福は緑地の面積と正の相関関係があることが明らかになった。たとえばソウル市のデータの分析では、緑地が増加するにつれて、住民の幸福度指数が上昇することが示された。
国民総所得(1人当たりGDP)が440万円(3万8,000米ドル)を超える国では、緑地の面積が経済成長よりも幸福に影響を与える因子としては強かった。
都市計画で緑地を活用するために
都市の緑地を住民の健康促進に役立てるために、研究グループは次のことを提案している。
(1)新型コロナの感染対策も含め、都市公園の治安を保持し、住人が公共の緑地にアクセスしやすいよう、社会的支援を強化する。
(2)開発後に緑地を確保するのは難しいため、都市化が急速に進む途上国も含め、開発の段階から公共緑地の計画をしっかり行う。
(3)地球温暖化による気候変動は、都市の緑地を維持するうえでも困難をもたらす可能性がある。都市のヒートアイランド現象は、都市の樹木の成長にも影響する。気候変動が人や環境にどのような影響をもたらすかを調査する必要がある。
「コロナ禍などの社会的難問を解決するために、衛星画像による得られたビッグデータを使う研究は増えています。今回の調査のために開発したツールにより、海辺や川などの水生環境と市民の幸福度との関係をさらに解明することを望んでいます」と、チャ教授は述べている。
Tackling the mental health impact of the COVID-19 crisis: An integrated, whole-of-society response(経済協力開発機構 2021年5月12日)Scientists show the importance of contact with nature in the city during the lockdown (ルムンバ大学 2021年7月7日)
Human Dimensions of Urban Blue and Green Infrastructure during a Pandemic. Case Study of Moscow (Russia) and Perth (Australia)(Sustainability 2021年4月8日)
Biodiversity is positively related to mental health(ドイツ総合生物多様性研究センター 2021年3月31日)
Species richness is positively related to mental health - A study for Germany(Landscape and Urban Planning 2021年7月)
Urban green space affects citizens happiness: Study finds the relationship between green space, the economy, and happiness(韓国先端科学技術研究所 2021年6月22日)
Urban green space and happiness in developed countries(EPJ Data Science volume 2021年5月30日)
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